上橋菜穂子『鹿の王』感想

目次

『鹿の王』あらすじ

 

KKc
2015年、本屋大賞受賞。

 

 東乎瑠(ツオル)に征服されたアカファの地。
 捕虜になり、鉱山でヴァンは過酷な労働をさせられている。

 

 そこで突如不治の伝染病・黒狼熱(ミッツアル)が発生した。
 原因は、鉱山に入り込んだ一匹の犬だった。

 

 噛まれたにも関らず生き残ったヴァンは、同じく生き残っていた幼い女の子を連れ、そこから脱出する。

 

 一方、天才医術師ホッサルは鉱山での大量死の謎を追う。

 

 逃亡奴隷と研究者。
 二人の運命は、病を軸に絡み合っていく。

 

 過去に一国を滅ぼしたほどの病はどこからやってきたのか。
 噛まれても死なない人は、何が違うのか。
 犬に噛まれたヴァンの身体にもある変化が……

 

 

2015年本屋大賞受賞『鹿の王』

 

『鹿の王』感想

 

 『鹿の王』は上橋菜穂子のお得意の本格的なファンタジー小説である。
 ファンタジーでありながらどこか現実的で、実際の出来事に基づいたものかと思うような出来である。

 

 また、ファンタジーに医学要素を混ぜ込むという、新しい試みを行っている。
 さらにそこに外交、領土争い、移民、文化、歴史……などなど。色々な要素が詰め込まれていて、でもそれでも一気に読めてしまうような読みやすさ。
 めまぐるしく変化し進んでゆく物語。

 

 読書に夢中になってしまい、ページをめくる手が止まらなくなってしまうこともしばしばだった。
 読み終えたとき、満足とともに少しさみしい気持ちにもなった。
 壮大な物語を読み終えたときはそうなることがある。
 『鹿の王』はすばらしい読書の時間を与えてくれたと思う。

 

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「鹿の王」とは?

 

 タイトルとなっている「鹿の王」は

  • 群れの危機に、自分の命を張って群れを逃がすような者のこと
  • (本当の意味で)群れの存続を支える、尊まれるべき者のこと
  • 主人公・ヴァンはその運命を背負わされた男である

 

『鹿の王』名言

 

「生き物はみな、病の種を身に潜ませて生きている。
身に抱いているそいつに負けなければ生きていられるが、
負ければ死ぬ。
ほかのすべてと同じこと」

 

「神というのは、便利な理屈だ」

 

「病に命を奪われることを諦めて良いのは、
諦めて受け入れるほかに為すすべのない者だけだ。
他者の命が奪われることを見過ごして良いのは、
たすけるすべをもたぬ者だけだ」