※引用はすべて東野圭吾『真夏の方程式』文藝春秋単行本による
目次
あらすじ
舞台は美しい海の町。
「ガリレオ」こと湯川は仕事でそこを訪れる。海中で鉱物資源が発見され、その調査を依頼されたため。
湯川の泊まった旅館にはもう一人宿泊客がいた。彼は翌朝死体で発見される。
殺しか、事故か。
ガリレオは旅館の少年とともに、真相に挑む。
ネタバレ
死体となって見つかった塚原正次は、酒に酔い、岩場に頭を打って死んだと思われていたが、そうではなかった。
解剖によると、睡眠薬を飲まされ、一酸化炭素中毒で命を落としたという。
塚原が宿泊していた旅館の主人・川畑重治とその妻・川畑節子は自分たちがやったと自首する。
<事故なんです。すぐに警察に届ければよかったのですが、ついあんなことを……。本当に申し訳ありませんでした。>
(302頁)
ボイラー管理のミスにより塚本を殺してしまい、その隠蔽のために夫婦は協力し、堤防の上から死体を落としたという話であった。
しかし鑑識による実験では、その状況は再現できなかった。
死亡した塚原は、以前東京で殺されたホステスについて調査していた。
ホステスを殺したのは川畑成美だった、とガリレオは推理する。
川畑節子は小料理屋で働いていた。夫ではなく、常連客・仙波との間にできた子が成美だった。
ホステスはその弱みを知り、節子に金銭を要求しようとした。
部屋をたずねると節子は不在、対応した成美は危機感を抱き、ホステスを刺した。
それを知った成美の実の父親・仙波は身代わりに罪をかぶった。
16年後、死期が近くなった仙波は塚原に真実を打ち明ける。
塚原は旅館を訪れる。そして、娘を守ろうとした川畑夫婦に殺されることになった。
<「あれは事故なんかじゃない。れっきとした殺人だ」湯川は彼女のほうを向いた。「そして犯人は……恭平君だ」>
(403頁)
ガリレオは殺人の手口を明らかにする。
川畑重治は恭平を利用し、塚原を殺害した。身体が不自由なため、恭平を動かし、煙突をふさいでもらい、ボイラーの不完全燃焼を誘発したのだった。
そして恭平は、うすうす自分のやったことに気づき始めていた。
<博士、と声をかけながら駆け寄った。湯川は顔を上げ、頷いた。「思った通りだ。次の特急列車に乗るんだろう?」>
(410頁)
クライマックス。ガリレオは恭平と話をするために駅で待っていた。
<「今回のことで君が何らかの答えを出せる日まで、私は君と一緒に同じ問題を抱え、悩み続けよう。忘れないでほしい。君は一人ぼっちじゃない」>
(412頁)
ガリレオは恭平にエールを送る。恭平は礼を言い、二人は別れた。
彼は帰りの電車内で決意をする。
<いろいろなことをいっぱい勉強して、それからゆっくりと答えを探そう。僕は一人ぼっちじゃないんだから――。>
(413頁)
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名言
<人間はそういうことを繰り返してきた。あとは選択の問題です。>
(28頁)
<「ねえねえ、船に乗って、捕鯨船に体当たりとかするの?」>
(31頁)
<非論理的な発言を聞くと黙っていられないたちでね>
(38頁)
<大人が隠していることを知ったって、君の人生にとって大してプラスにはならない>
(57頁)
<「理科嫌いは結構だ。でも覚えておくことだな。わかんないものはどうしようもない、などといっていては、いつか大きな過ちを犯すことになる」>
(63頁)
恭平少年が犯罪に加担してしまうことを暗示している発言。
<好奇心を放置しておくことは罪悪だ。人間が成長する最大のエネルギー源が好奇心だからな。>
(233頁)
<君たちに刑事の勘というものがあるように(……)僕たちにもあるんだよ。物理学者の勘というものがね。>
(326頁)
<「君の務めは人生を大切にすることだ。これまで以上に」>
(408頁)
<実験をした者でないとわからない。それが科学なんだ。>
(413頁)
感想
少年・恭平とガリレオの初対面の会話において、恭平が海外ドラマの主人公を知っているのは不自然ではないのか?と思った。
伏線かと疑ってしまったが、そうではなかった。
ひっかけを仕込むのが上手いな……。
ガリレオが恭平のゲームを渡されて戸惑うところが面白い。
「仮想世界には興味がない」というセリフもよい。
小説と映画の違いについて。
湯川が紙鍋を使って「不完全燃焼」を恭平に教える場面(235頁)が、映画とは異なる。
映画では、ガリレオは恭平をかばうようなしぐさをしたが、原作では丁寧に一酸化炭素発生の仕組みを解説している。
おわりに
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