※引用はすべて米澤穂信『満願』新潮社単行本による
あらすじ
表題作「満願」を収録したミステリー短編集。
- 夜警
- 死人宿
- 柘榴
- 万灯
- 関守
- 満願
じわじわと滲み出てくるような狂気を感じられる作品群。
感想
夜警
<葬儀の写真が出来たそうです。>
(「夜警」7頁)
「警察には向かない人びと」と題したい気もする。
物語全体に伏流する「嫌な感じ」。どこまで読んでもその影は拭えない。本書に収められた小説はすべて、徹頭徹尾、「暗い話」である(とらえ方は人それぞれだとは思うけれど)。
さて。「死人に口なし」とは言うけれど、口があったとしてもおそらく真実を話してはもらえないだろう。
死人宿
<佐和子の居所がわかったと聞いて、取るものも取りあえず家を飛び出したのは、残暑の名残が長く尾を引いた九月終わりのことだった。>
(「死人宿」59頁)
自殺志望者が集まるという宿に泊まる男。そこに遺存する死の気配。
柘榴
<両親はどちらも一目を引くほどの顔立ちではなかったが、母方の祖母が若いころ、小町娘として新聞に載るほど評判だったという。>
(「柘榴」101頁)
ペルセポネに自らをなぞらえる女。人は物語から離れて生きられないのかもしれない。
物語に自分の人生を沿わせるということは、自らの行為の後ろ盾を獲得することと同義だ。
それはまるで添え木のようなもので、生きている間に腐ってしまわぬ保証はどこにもない。
万灯
<私は裁かれている。>
(「万灯」141頁)
殺人者の告白。
裁きとは、裁かれている自覚だけで成立するのかもしれない。
関守
<エンジンを止めると、歌声も止まる。>
(「関守」225頁)
精密な構成・伏線。私はこれが6つのうちで最も優れていると思う。
読んでいる最中は無意味なセリフに見えた「……」までも、計算に織り込まれているような気がする。
満願
<待ち侘びていた電話が入ったのは、午後の一時を過ぎてからのことだった。>
(「満願」283頁)
表題作。
人間は大切なことに関しては、原因と結果を取り違える。そんなことを思い出した。
おわりに
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