※著者HP「ペンギンが教えてくれた物理のはなし:渡辺佑基Online」を参考にしました
目次
あらすじ
『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』は研究者・渡辺佑基が自身の研究について語った本である。
動物の身体にデジタル機器を装着、一定期間後に回収し、データを分析する。
試行錯誤の日々が続いたが、さまざまなことが明らかになる。
第68回毎日出版文化賞を贈られた、バイオロギング研究最前線の様子を伝える名著。
【読書感想文】原稿用紙5枚(2000字,100行)
タイトルは『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』ですが、これはカチコチの物理の本ではありません。その証拠に著者ははじめ、「ペンギンすいすい運動学」という題名にしたかったそうです。
「すいすい」という言葉がペンギンの泳ぐ様子と、読みやすい様子を表したいいタイトルだ!と著者は自分で絶賛しています。私もそう思います。実を言うと、こっちのタイトルのほうが読みたくなります。個人的な好みの問題でしょうけれど。ちなみに最終的に題名は編集者が決め「ペンギンが教えてくれた物理のはなし」になったそうです。これもまたよいタイトルだと思います。
そんなわけで、『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』はぜんぜん難しい本ではありません。読んでいて(難しいな)と感じる本というのはたぶん著者がわかりやすい説明をする努力を怠った本だと私は思っていますが、この本はホームページで著者自身が「堅苦しくない楽しい読み物にすることを意識しました」と語っているように、とても読みやすく、また楽しい本です。こういう読者に優しい「リーダー・フレンドリー」な本が世の中にもっと増えるといいなと思いました。ほんとに。
さて、『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』では「バイオロギング」という方法を使って動物の行動を研究しています。「バイオ」は「生物」を表す言葉で、「ロギング」は「記録する」という言葉です(どちらも英語)。つまり「バイオロギング」とは生物の行動を記録するという意味の言葉です。
「記録」というと野球のスコアブックや、アサガオの観察日記などを私は連想するのですが、「バイオロギング」ではそんなふうに記録をとることはしません。仮にそのような方法で地球を一周するアホウドリのような動物の記録をとろうと思ったら、一体いくら予算が必要になるのか、さっぱり見当がつきません。船や電車、航空機などの手配や、食事や宿の手続きもきっと面倒です。そんなことをしている間にアホウドリを見失ってしまうかも知れませんし、いつ眠ればいいのかもわかりません。複数でやれば交代で眠れますけど、それだとさらに人件費がかかります。
ではバイオロギングでは具体的にどのように記録するのかというと、動物に記録計をとりつけるだけです。なんと簡単なことでしょう。しかもその記録計は時間の経過で自動的に外れるような仕組みです。試行錯誤のうえにたどり着いた手法とのことですが、ほんとうにすばらしいことです。科学者とはかくあるべきだと強く思いました。
また『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』のなかで著者はマッコウクジラについての説をひっくり返します。以前まで水族館の解説文などには「マッコウクジラは脳油で浮力調節する」と書いてあることが多かったのですが、著者はバイオロギングを用いて、それを否定しました。
ちなみに私は「脳油」がよくわからなくて調べました。人間の脳は頭蓋骨の中で液体の中に浮いていますが、それのことを指すのかなと思いましたが違いました。「脳油」とはマッコウクジラの頭のどこかにおさめられた液体で、白っぽいものだということです。これ以上はよくわからなかったのですが、とにかく人間の脳のまわりの液体とは違うものだということはわかりました。
さて著者・渡辺佑基はマッコウクジラはその、頭に存在する脳油による浮力調整をしないということを証明しました。ここで私がすごいな、と思ったことは、既存の説をただ信じることをせずに、疑問を持って問題にとりくんだことです。さらに彼は「マグロは時速100キロで泳ぐ」をも否定し「マグロは時速8キロで泳ぐ」と図鑑の記述を書き換えました。
私の考える、科学的なあるいは科学者が持つべき態度とは、このようなものであると強く思います。
自分のもしくは今までの価値観や考え方を、誰よりも早く否定することを最上の喜びとする。そんな態度で物事に向かう人のことを私は「科学者」と呼びたいと思います。まさしく『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』の著者はそのような「科学者」の好例です。この本を読んで私は動物の生態について新しく知ったことについて驚くとともに、著者の科学者としての姿勢に大きな敬意を持ちました。そしてこれからはできるだけ「科学的に」生きたいと思いました。
(98行,原稿用紙4枚と18行)
おわりに
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