※引用はすべて文春文庫による
要約・概要
<近ごろ読んだ本のうちで、川上徹太郎君の「日本のアウトサイダー」が大変面白かった。>
<先日、文藝春秋社の講演旅行で、東北を旅した。>
など、小林秀雄のエッセイはさりげない書き出しから始まります。
書き出しはどれもさらりとしたものではありますが、その内容は徹底的な思索と、その結果となるすばらしい発想であふれています。
まさに『考えるヒント』というタイトルにふさわしい、私たちの頭脳を刺激してくれる本です。
収録作品は以下のとおり。
- 常識
- プラトンの「国家」
- 井伏君の「貸間あり」
- 読者
- 漫画
- 良心
- 歴史
- 言葉
- 役者
- ヒットラーと悪魔
- 平家物語
- プルターク英雄伝
- 福沢諭吉
- 人形
- 樅の木
- 天の橋立
- お月見
- 季
- 踊り
- スランプ
- さくら
- 批評
- 見物人
- 青年と老年
- 花見
- ネヴァ河
- ソヴェットの旅
感想
考えることについて
本書のタイトルに「考える」という言葉が入っているので、私は「考えること」をキーワードとして読みました。
物を考えるとは、物を摑んだら離さぬという事だ。
(68頁)
著者・小林秀雄は「考える」ということにこのような文章を書いています。
何かを考えるときには、それを徹底的に考え抜くことが大事ですよ、というメッセージだと私はとらえました。
考える、といっても、ときには考える手間を省略しているのではないか、と小林は考えます。
人生を簡単に考えてみても、人生は簡単にはならない。
(69頁)
人生に限らず国家や争い、道徳問題や社会、階級など、大切なものほどそう簡単に答えは出ない。
それらを判断するときに、安易に既存の説にとびついて、それを身につけることは簡単です。
ですがほんとうに大事なのは「摑んだら離さぬ」くらいエネルギーを注いで考えるということなのです。私はそう思いました。
考えることと無意識について
意識的なものの考え方が変っても、意識出来ぬものの感じ方は容易には変らない。
(180頁)
こう考えるようになったきっかけは知人から聞いたお月見の話。
知人が何人かでお酒を飲んでいて、ふと月を見ると十五夜であった。日本人同士は無言で月に感じ入っていたが、同席したスイス人たちは「今夜の月には何か異変があるのか」という質問をした、という話。
この感覚は言葉で説明するのはたいへん難しい。おそらく話してみたところで理解するのもたいへん難しいことだと思います。
無意識な感じ方、伝統的な感じ方は、「皮膚の色を変える自由がない」ように変えることは不可能だと小林は言っています。
批評について
ある対象を批判するとは、それを正しく評価する事であり、正しく評価するとは、その在るがままの性質を、積極的に肯定する事であり、そのためには、対象の他のものとは違う性質を明瞭化しなければならず、また、そのためには、分析あるいは限定という手段は必至のものだ。
(201頁)
この直前で小林は「批評とは人をほめる特殊技術だ」と言っています。つまり何か、誰かを批評するということは、それをほめてほめて、ほめちぎるということなのです。
「私の批評でよくできたものは、他人への賛辞だ」と語るように、いいところを探して、そこを「いいね!」とピックアップする文章が、よい批評なのです。
これは批評に限らずすべての文章、すべての言葉、すべてのコミュニケーションに当てはまるものだと私は思いました。だから、日ごろからなにかを絶賛していかねば、と意識するようになりました。
おわりに
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