※引用はすべて筒井康隆『時をかける少女 新装版』角川文庫による
目次
あらすじ
ラベンダーのにおいを理科実験室でかいだときから、芳山和子(よしやまかずこ)はテレポーテーション(身体移動)とタイムリープ(時間跳躍)の能力を得た。
彼女はラベンダーの香りの薬を作った人物に会うため時をかける。
そこで出会った意外な人物とは……
ネタバレ
和子がかいだ薬を作っていたのは、友人の深森一夫だった。
彼は「西暦2060年から来た」未来人だったのだ。
一夫は未来で薬学を研究しており、その実験に失敗して過去に飛ばされたらしい。
和子の前で一夫は薬を完成させ、未来へ戻る。
その後
深町一夫が未来に帰ったあと、彼のことを知っている人はいなくなった。
和子も彼のことをすっかり忘れていた。
しかしラベンダーのにおいをかぐとき和子はいつも、いつか「すばらしい人物」にきっと会えるのだと確信する。
細田守監督による映画『時をかける少女』は、筒井康隆の『時をかける少女』を原作として、その20年後を描く話です。
芳山和子も出るみたいです。深森一夫と浅倉吾朗は出るかわかりません。こんど観ます。
スポンサードリンク
広告
【読書感想文】原稿用紙3枚(1200字,60行)
『時をかける少女』は理科実験室でのラベンダーの香りから始まります。そして物語の終わりも、深町家の前で香るラベンダーです。さらに表紙の貞本義行のイラストでも、芳山和子がラベンダーを持って立っています。
この小説はラベンダーが大事だな、と私は思いました。なので、ラベンダーの花言葉を調べました。私の家にあった夏梅陸夫『花言葉【花図鑑】』大泉書店によると「清潔」「貞節」「期待」。ラベンダーはラテン語の「洗う」という言葉からきた名前のようで、そこからこれらの花言葉が選ばれているとも書かれていました。
私は『時をかける少女』には「期待」の花言葉がぴったりだと思いました。
小説のはじめから私は(理科実験室にいた黒い影は誰だろう?)と「期待」しながらページをめくっていきました。
深森一夫は自分の周りの人たちに架空の記憶を植えつけていました。その作り物の記憶は一夫が生まれてから高校生になるまでをカバーしています。
私はここを読んで(もしかして、自分の周りにもそういう人がいるのでは?)と思いました。思った瞬間に自分でも(ありえないだろう)とすぐに否定したのですが、よく考えてみると「いない」と証明することはできないことがわかりました。
私たちは動物園や写真や映像から「キリンは黄色い動物」だと思っています。でも、これって「すべてのキリンは黄色い」ことにはならないんじゃないかな、と私は思いました。
たとえば「真っ黒なキリンがいるかもしれない」と誰かが言い出したとします。その人は自分の意見を証明するために「真っ黒なキリン」をたった一頭でも見つければいいです。
では、その意見に反対したい人はどうしたらよいのでしょうか。
世界中のキリンを調べて「ほら、みんな黄色だった」と言うしかないのです。そこまでしなければ「全部調べていないんだから、残りの中に黒いキリンがいるかもしれないじゃん」と反論されてしまうからです。
だから私が思った(深森一夫のような未来人がいるかもしれない)に対しては「100%いないよ」と言うことがとても難しいのです。私の「期待」は否定されないことになります。
そして最後は私だけでなく、登場人物である芳山和子もラベンダーの香りから「いつか、だれかすばらしい人物が、わたしの前にあらわれる気がする」と「期待」しています。
「期待」で始まった物語は「期待」で幕を閉じました。
小説を読み終わってから、細田守監督による映画『時をかける少女』があることを知りました。これは今回読んだ筒井康隆『時をかける少女』の20年後の話だと聞きました。芳山和子も出るみたいです。
こんど観てみようと思います。もちろん「期待」しながら。
(60行,原稿用紙3枚ぴったり)
名言
「ど、どうしたんだろう! 死んでるのだろうか?」
(14頁)
――まるで、おしばいをしてるみたい!
(40頁)
科学というものは、不確かなものを確実にしていかなければならないためのその過程の学問なんだ。
(60頁)
「なあに、理屈なんてわからなくったっていいさ」
(89頁)