太宰治『走れメロス』解説と読書感想文

※引用はすべて太宰治『斜陽 人間失格 桜桃 走れメロス 外七篇』文春文庫による

あらすじ

 人を信じることが出来ない王様に、メロスは激怒した。
 城に武器を持って乗り込んだメロスは処刑されることになる。
 メロスは妹の結婚式を開くため三日待ってくれと言う。
 人質として親友を残し、メロスは走った。
 式を終え困難を乗り越え、メロスは殺されるために戻ってくる。
 その正直さと友情に王様は感動し、都に平和が訪れた。

 

全文

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作者

 太宰治(だざいおさむ)。
 他に書いた作品は『斜陽』『富嶽百景』『人間失格』『桜桃』など。

 

冒頭

メロスは激怒した。必ず、かの邪知暴虐の王を除かねばならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮らして来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
(406頁)

読み方

  • 邪知暴虐 → じゃちぼうぎゃく
  • 牧人 → ぼくじん

 

登場人物

メロス

 主人公。勇者(自称)。単純な男。
 正義のために王を殺そうとするが失敗、処刑されることになる。
 妹の結婚式のための猶予を願い、身代わりに親友・セリヌンティウスを指名、そして走る。
 ちなみにタイトルの「走れメロス」とは、自分で自分に言った言葉(417頁参照)である。

 

暴君ディオニス

 身分は王様。家族や家臣を次々と殺したので、民衆に恐れられている。
 「親友のために帰って来る」というメロスの提案を受け入れ、ほくそ笑む。
 ラストシーンでは赤面するが、決してメロスに恋心があるわけではない。

 

セリヌンティウス

 メロスの親友。職業は石工。シラクスの市で働いている。
 メロスと同じように正義感にあふれ、正直な男である。
 メロスを殴った後「私のことも殴れ」と言ったが、そういう趣味があるわけではない。

 

フィロストラトス

 石工・セリヌンティウスの弟子。
 メロスがシラクスに帰還する直前に現れ「走るのは、やめて下さい。」と叫ぶ。それは約束の時間にメロスが到着できそうもないと判断したためであったが、結局メロスは間に合った。おっちょこちょい。
 実はフィロストラトスは王の手下であったため、そんなことを言ったのではという説もある。

 

山賊

 メロスが荒れた河を必死で泳ぎ切ったところに現れる。敵が弱っているときに攻撃するのは戦いの基本。
 「さては、王の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな。」とメロスは推理する。
 メロスが開き直って反撃すると、びびって彼を取り逃がしてしまった。

 

ひとりの少女

 緋色のマントをメロスに渡す。このときメロスは全裸体であった。

 

問題

メロスと暴君の約束

Q.メロスが激怒したのはなぜか?
A.人を信じることのできない王様が、理由もなくたくさんの人々を殺していると聞いたから。

 

Q.「邪知暴虐」の意味は?
A.「邪知」は悪い考えを持っていること。「暴虐」は誰かを苦しめること。つまり、民衆を苦しめるようなことをする悪い人、という意味。

 

Q.メロスがシラクスの市にやってきた理由は?
A.妹の結婚式のための品々(花嫁の衣装や祝宴のご馳走など)を買うため。

 

Q.メロスが用事をすませてすぐに帰らなかったのはなぜか?
A.竹馬の友であるセリヌンティウスに会うため。

 

Q.「竹馬の友」の意味は?
A.幼なじみ。

 

Q.「メロスは、単純な男であった。」とあるが、どこからそれがわかるか?
A.王に激怒した瞬間、買い物した荷物を背負ったままで、セリヌンティウスに会いに行くのも忘れて、王城に入って行ったところ。

 

Q.王様が「暴君」と呼ばれているのはなぜか?
A.悪心を抱いていない人々を次々と殺しているから。

 

Q.メロスは捕まったとき「民を暴君の手から救うのだ。」と答えているが、具体的にどうしようと考えていたか?
A.短刀で王を殺そうと考えていた。

 

Q.メロスの「言うな!」にはどのような感情がこめられているか?
A.怒りや正義感。

 

Q.メロスは「人の心を疑うこと」をどう考えているか?
A.「もっとも恥ずべき悪徳だ」と考えている。

 

Q.暴君は「おまえなどには、わしの孤独の心がわからぬ。」と言うが、「孤独」とはどんな状態か?
A.親族や近い家臣など、身の回りの人々を信じることができないという状態。

 

Q.暴君は「わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。」と言うが、彼は人間をどのようなものだと考えているのか?
A.私慾のかたまり。

 

Q.暴君の「逃がした小鳥が帰って来るというのか。」の「小鳥」とはなんのことか?
A.メロス。

 

Q.暴君は「願いを、聞いた。」と言うが、「願い」とはなにか?
A.メロスが処刑されるまで3日待つことと、身代わりに友人を預かること。

 

Q.暴君は「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」と言ったが、彼が「わかっている」というのはどういうことか?
A.メロスが期限ぎりぎりに戻ってくると暴君は思っている。そうすることでセリヌンティウスが処刑されメロスの命は助かるし、メロスも暴君も約束も破ったことにはならない。暴君は今までどおり「人は信じられない」という意見を曲げなくてもすむ。

 

Q.メロスが「地団駄踏んだ」のはなぜか?
A.暴君がメロスの言葉を心から信じずに、メロスのことを嘘つきだと思っているから。

 

Q.身代わりに連れて来られたとき、セリヌンティウスはなぜ「無言で首肯き、メロスをひしと抱きしめた」だけだったのか?
A.セリヌンティウスとメロスは「竹馬の友」であり、互いに信頼し合っていたから。

 

メロスの村と結婚式

Q.メロスが村に到着したときの彼の様子を4字で抜き出せ。
A.疲労困憊

 

Q.「なんでもない」「市に用事を残してきた。またすぐ市に行かなければならぬ。」と、メロスが妹に嘘をついた理由は?
A.次の日に結婚式を開こうと考えていたので、妹に明るい気持ちでいてもらうため。

 

Q.メロスは結婚式の後で「いまは、自分のからだで、自分のものではない」と思うが、なぜ「自分のものではない」のか?
A.暴君と約束したとおり、期限までに処刑台にたどり着き、セリヌンティウスを開放した後で殺されなければならないと考えているから。

 

走るメロスと数々の障害

Q.メロスが走ることを邪魔したものを挙げよ。
A.眠気。大雨。故郷への未練。氾濫した川。山賊。灼熱の太陽。身体疲労。

 

Q.メロスが走ることを助けたものを挙げよ。
A.清水。信頼。不吉な会話。愛と誠の力。わけのわからぬ大きな力。

 

Q.渡ろうとしていた川の橋が壊れていたとき、メロスはどうしたか?
A.川岸にうずくまり、男泣きに泣きながらゼウスに手を挙げて哀願した。しかしどうにもならなかったので、メロスは泳いで川を渡った。

 

Q.「濁流は、メロスの叫びをせせら笑うごとく、ますます激しく躍り狂う。」とあるが、ここで用いられている表現技法は?
A.擬人法。

 

Q.メロスが疲れ切って倒れたとき、王のことをどう表現しているか。8字で抜き出せ。
A.稀代の不信の人間

 

Q.メロスが一団の旅人とすれちがったとき聞いた「不吉な会話」とはなにか?
A.フィロストラトスが処刑される寸前だといううわさ話。

 

Q.メロスはフィロストラトスに「間に合う、間に合わぬは問題ではないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいもののために走っているのだ」と語るが、「もっと恐ろしく大きいもの」とはなにか?
A.人間どうしの信頼。メロスが間に合わなかったら彼と王様、彼とフィロストラトスの間の信頼関係が崩れてしまう。

 

Q.メロスは「わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った」とあるが、「わけのわからぬ大きな力」とはなにか?
A.自分のことを心の底から信じてくれている人(=フィロストラトス)に、正直に応えたいという思い。

 

刑場クライマックス

Q.メロスとフィロストラトスが殴りあったのはなぜか?
A.メロスは走っている最中に「悪い夢を見た」(=期限までに着くことを諦めようとした)から。フィロストラトスは一度だけメロスが期限までに来ないのではないかと疑ったから。互いに互いを罰しなければ気がすまなかったから。

 

Q.メロスとフィロストラトスが殴りあい、抱き合って泣いた様子を王様は「まじまじと見つめ」、「顔を赤らめ」たが、そのとき何を感じていたのか?
A.メロスは「戻ってくる」約束を守ったし、セリヌンティウスは強い信念でメロスを待った。いままで自分が「人は信じられない」という態度をとっていたことを恥ずかしく思い、それを改めようとしている。(恥ずかしさで顔が赤くなっている)

 

Q.王様は「信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。」と言うが、なぜそのように思ったのか?
A.メロスは自分が殺されるとわかっていながらも、約束を守って帰ってきた。メロスの「信実」の心が王様に伝わったから。

 

Q.王様が「おまえらの仲間の一人にしてほしい。」と頼んだのはなぜか?
A.メロスとセリヌンティウスの殴りあうほどの友情を見て、人を信じることのすばらしさを感じた。誰かを信じ、また誰かに信じられるような関係を自分も築きたいと思ったから。

 

Q.最後のセリフを言った「佳き友」とは誰のことか?
A.王様、あるいはフィロストラトス。

 

 空いた時間にかしこくお小遣い稼ぎ!

 

読書感想文

原稿用紙半分(200字,10行)

 王様は「人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。」と言いつつも、メロスとの約束を守りました。日が沈むまで、セリヌンティウスを処刑しませんでした。
 王様は、心の底では「メロス、早く戻って来い」と思っていたのではないでしょうか。だから、メロスとセリヌンティウスが殴り合った後、素直になるのが早かったのだと私は思います。

(178字,10行,原稿用紙半分)

 

原稿用紙3枚(1200字,60行)

 

KKc
「王様が欲しかったのは理由じゃなくて、きっかけ」

 

 『走れメロス』はハッピーエンドの物語です。
 メロスの命もセリヌンティウスの命も助かるし、結婚式も無事に行われるし、さらに熱い殴り合いという最高の友情イベントまであります。ついでにメロスは王様という新しい友達も手に入れて、これからの人生はきっとバラ色だろうと思います。恋人候補のような人物もちらっと登場しますし。

 

 さて私は『走れメロス』の登場人物の中でも、特に王様に注目しました。王様は初めて登場したときに「邪知暴虐」という悪いやつのボスのように描かれています。

 

 でも、それはクライマックスの場面で変わります。メロスとセリヌンティウスが泣きながら殴り合うのを、王様はどんな気持ちで眺めていたのでしょうか。すべてが終わった後で王様は口を開きます。

 

 「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしも仲間に入れてくれまいか。そうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」

 

 これを読んだとき私は「やけにあっさり心変わりしすぎじゃないか?」と思いました。
 心の芯まで悪に染まっていたのなら、こんなに簡単に「信じることっていいね」と思うようにはなれないはずです。日曜朝のヒーローものだって、毎回「悪さはやめろ」と言っているのに悪の組織は悪いことを繰り返します。人間の心はそう変わらないものだと私は思います。

 

 なので、王様はそれまできっと心のどこかで「他人を信じたい」と願っていたのでは、と考えました。そういうふうに読み返してみると王様のセリフに「わしだって、平和を望んでいるのだが。」とあるのを見つけました。はじめて読んだときは「うそつきめ」と思ったのですが、どうもそうではないようです。

 

 メロスとセリヌンティウスの信頼、信実を見せつけられてすぐ素直になるということは、王様はやっぱり「人を信じたい」と思っていたのです。王様が欲しかったのは、きっかけです。
これはけっこういろんなことに当てはまるだろうと私は思います。読書感想文を書くことがなければ、国語の授業が無ければ、私は『走れメロス』を読むことはなかったでしょう。

 

 だから、どんなささいなきっかけでも、それにつかまってやってみればいいと思いました。そうしたら、王様のように歓声を受けたり、メロスのようにマントを捧げられたりするようなことがあるかもしれません。そんなに大きなことでなくても、テスト前に「ここは出るだろう」と思ったところが当日出題されるようなラッキーはあってもいいと思います。そう考えるのは私にとって、都合が良すぎるような気もしますけれど。

 (60行,原稿用紙3枚ぴったり)

 

原稿用紙5枚(2000字,100行)

 

KKc
「王様が欲しかったのは理由じゃなくて、きっかけ」

 

 メロスは激怒して、三つのピンチに直面します。

 

 ひとつは自分の命です。王城に武器を持って入った彼は、危険人物として捕らえられます。そして王のもとへ引き出されました。

 

 妹の結婚式を開くことも危うくなりました。殺されてしまっては結婚式どころではありません。でもこれは、親友セリヌンティウスのおかげでなんとかぎりぎり達成できました。まったくセリヌンティウスはいいやつです。私もこんな友人がいたらいいな、と思いました。

 

 ところがその時点でメロスは、友セリヌンティウスと楽しい時間を過ごすことが叶わなくなりました。人質として呼び出されたときは、楽しい再会ではありません。友情を温めあう機会を、メロスは怒りによって失ったのです。

 

 とはいえメロスは主人公ですから、それらは結局よい結果に終わります。
 メロスの命もセリヌンティウスの命も助かるし、結婚式も無事に行われたし、さらに熱い殴り合いという最高の友情イベントまでやってのけます。さすが主人公、と私は思いました。ついでに王様という新しい友達も手に入れて、メロスのこれからの人生はきっとバラ色だろうと思います。恋人候補のような人物もちらっと登場しますし。

 

 さて『走れメロス』の他の登場人物に注目すると、どうでしょうか。メロス以外の人も、なかなか幸せになっていると私は思います。

 

 そのいちばんの例が王様です。
 王様は初めて登場したときに「邪知暴虐」という悪いやつのボスのように描かれています。それはメロスが正義を表したキャラクターだからでしょう。王様はメロスの引き立て役でした。

 

 でも、それはクライマックスの場面で変わります。メロスとセリヌンティウスが泣きながら全力で殴り合うところに、王様に関する文章はひとつも出てきません。彼はどんな気持ちで友情の交換を眺めていたのでしょうか。それが終わって初めて、王様は口を開きます。

 

 「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしも仲間に入れてくれまいか。そうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」

 

 これを読んだとき私は「やけにあっさり心変わりしすぎじゃないか?」と思いました。
 心の芯まで悪に染まっていたのなら、こんなに簡単に「信じることっていいね」と思うようにはなれないはずです。日曜朝のヒーローものだって、毎回「悪さはやめろ」と言っているのに悪の組織は悪いことを繰り返します。人間の心はそう変わらないものだと私は思います。

 

 なので、王様はそれまできっと心のどこかで「他人を信じたい」と願っていたのでは、と考えました。そういうふうに読み返してみると王様のセリフに「わしだって、平和を望んでいるのだが。」とあるのを見つけました。はじめて読んだときは「うそつきめ」と思ったのですが、どうもそうではないようです。

 

 メロスとセリヌンティウスの信頼、信実を見せつけられてすぐ素直になるということは、王様はやっぱり「人を信じたい」と思っていたのです。王様が欲しかったのは、きっかけです。
これはけっこういろんなことに当てはまるだろうと私は思います。読書感想文を書くことがなければ、国語の授業が無ければ、私は『走れメロス』を読むことはなかったでしょう。

 

 だから、どんなささいなきっかけでも、それにつかまってやってみればいいと思いました。そうしたら、王様のように歓声を受けたり、メロスのようにマントを捧げられたりするようなことがあるかもしれません。

 

 そんなに大きなことでなくても、テスト前に「ここは出るだろう」と思ったところが当日出題されるようなラッキーはあってもいいと思います。そう考えるのは私にとって、都合が良すぎるような気もしますけれど。

 (85行,原稿用紙4枚と5行)

 

名言

「呆れた王だ。生かしておけぬ。」
(408頁)

 

「とんでもない嘘を言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」
(409頁)

 

おまえの兄はたぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。
(412頁)

 

「気の毒だが、正義のためだ!」
(415頁)

 

真の勇者、メロスよ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情ない。
(415頁)

 

ああ、できることなら私の胸を截ち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。愛と信実の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。
(415頁)

 

正直な男のままにして死なせて下さい。
(418頁)

 

おまけ・森見登美彦による新釈

 小説家・森見登美彦が『走れメロス』を参考に『新釈 走れメロス』という物語を書いています。
 『走れメロス』は友情のために「戻る」話でしたが、森見版は「逃げる」話になっています。
【関連リンク】「逃げよ。|森見登美彦『新釈走れメロス』【読書感想文】あらすじ付

 

おわりに

KKc
お読みいただきありがとうございました。

 

過去に書いた「読書感想文」はこちらから。

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