目次
あらすじ
シリア人のアイは、アメリカ人の父と日本人の母の養子となった。
「東日本大震災」
「9.11」
「イスラーム」
激動の世界の只中で、生きることの意味を探し続ける物語。
感想
「この世界にアイは存在しません」と言われたら、あなたはどう反応しますか。
「まぁ、そういう意見もあるよね」とか、「何を言っているんだ、この世はラブ&ピースだろ」とか、「なんてかわいそうな人」とか、「仕方がない、私がアイというものを教えてあげよう」とか、考えることは人それぞれだと思います。
西加奈子『i』における「アイ」にはさまざまな意味があって、英語でいうところの「私(I)」だとか、登場人物である「アイ」だとか、それこそ普遍的な「愛(love)」だとか、(ちょっと難しいですが)「虚数(i)」などを指すと思われます。
虚数のiというのは「存在しない数」のことです(存在しないのに名前を付けるのはどうなんだ?という意見もありそうですが、とりあえず、数学的な概念なのでそのあたりは保留します)。
虚数iは二乗すればマイナス1になる数です。二乗とは、同じ数を掛け合わせることであり、この場合はi×i=-1という式が出来上がります。
存在しないものを掛け合わせるとマイナス1になって現れるなんて、なんだか不思議な気持ちになります。
「私は存在しない」と思い込んでいる人間をふたり用意して交流(勾留ではなく)させれば、マイナス、すなわち、なにかネガティブなことが立ち上がるのでしょうか。お時間のある方にはぜひ実験していただきたいものです。
さて、西加奈子『i』の主人公は、生きることの意味に悩みます。
「悩む」という動詞は、答えが決まっているのに受け入れられないとき、あるいは答えのないときに使われるものですから、アイがとても苦しんでいたことがわかります。
彼女は、世界で起きている不幸の連鎖に心を囚われ、自分自身が幸福であることをずっと恥ずかしいと思って生きてきました。
「恥」の感覚は、日本人が意識するものだと、どこかで聞いたことがありますが、その意味で、アイはとても日本人らしいなと思いました。
恥じることも、生きる意味に悩むことも、どちらも人間らしくて、私は好きです。
この物語を読んで感動する人は、たぶんそのようなことが心の片隅に引っかかっていたり、あるいはその渦中にいるような人だと思います。
本書はきっと、そのような人たち(私たち)に少しの鼓舞を与えてくれる、愛にあふれた小説だと私は思います。
おわりに
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