東野圭吾『危険なビーナス』感想|喪失の女神

あらすじ

 主人公は獣医。動物病院の院長代理の男。
 弟が行方不明となっていることを義理の妹から知る。
 弟の失踪と一族の秘密。
 東野圭吾のライトミステリー。

 

感想

 キャッチコピーに「弟の妻と会った瞬間、雷に打たれた」とあったので、(不倫ものか)と思ったけれど、そんなに短絡的な小説ではありませんでした。
 主人公・伯朗は失踪した弟について、弟の奥さんである楓と調査を始めます。

 

 タイトルにある「ビーナス」とはおそらく”Venus”で、ローマ神話における愛と美の女神です。
 「ビーナス」と聞けば私は、パリのルーヴル美術館にある「ミロのビーナス」を想像します。

 

 『危険なビーナス』は弟の失踪という「喪失」を物語の開始点としています。また、母の死という「喪失」や遺産相続という「喪失」による事象の発生も作中では扱っています。さまざまな「喪失」が織り込まれ、ページをめくる手が止まりそうにない(実際は止まっている)。それはミロのビーナスが彼女自身の両腕を「喪失」しているがゆえに私たちの関心を集めることに似ていると思います。

 

 ミロのビーナスはその肉体や顔が美しいと認められていますが、その美しさは腕がないからこそいっそう際立っています。『危険なビーナス』は名の繋がりがないからこそ、血の繋がりがないからこそ強くなった人と人との繋がりを私たちに示してくれます。

 

 時には危険を冒してでも、夏の虫のように火に飛び入るのもよいかもしれません。喪失の先に新たな世界が開けるかも(本書を買えばとりあえず金銭は喪失できる)。

 

おわりに

KKc
お読みいただきありがとうございました。

 

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