目次
あらすじ
『残り全部バケーション』は、表題作を含む、全5編の連作短編集。
どの話にも「溝口」「岡田」が登場する。
第一章「残り全部バケーション」
離婚予定の夫婦とその一人娘。彼らの前に現われた「岡田」と名乗る男は、「解散前の思い出」としてドライブをすることを提案した。
彼も一緒に付いて来るというが……。
第二章「タキオン作戦」
「岡田」はある日路上で、虐待を受けていると思われる男子小学生と出会う。
奇策とも思われる作戦で、彼の父親に接近を試みる。
著者本人が「理想の短編」と本作のことを語っている。
第三章「検問」
「溝口」とその相棒によって、車に女性が閉じ込められる。
走行中前方に見えたのは、検問。
はたして車は検問を通り抜けることができるのか?
第四章「小さな兵隊」
「岡田」の少年時代。
「岡田君」と呼ばれた目立たない彼は、意味不明ないたずらを繰り返す。
「僕」はそんな彼に興味を持った。
第五章「飛べても8分」
書き下ろしの最終章。
交通事故にあい、「溝口」は入院した。
穏やかに入院生活を過ごしていたかと思いきや、意外な人物がそこにはいた。
※「RENZABROのページ」で第五章「飛べても8分」が試し読みできます。
感想
<この小説を読んでいる間はいろんな嫌なことを忘れられますように。楽しい小説のはずです。>
(著者コメント)
『残り全部バケーション』の担当編集によると、「残り全部バケーションだ~」というのは伊坂幸太郎の発言が元のようである。
著者が『ゴールデンスランバー』を書き終わったさいに、このような気持ちを抱いたらしい。
確かに長編小説を書き終えたときにはこのようなことを叫びたくなってもおかしくはない。
というか、実は実際に叫んだのではないか? そして担当編集が「先生、次作はそれでいきましょう!」と応える。伊坂幸太郎は完成した喜びもつかの間、新たな小説を書くことをその時点で決められてしまった。己の不用意な発言のために……みたいなことがあったのかもしれない。
すべて私の想像ですけど。
さて、私が思うに伊坂幸太郎の小説のよいところは、セリフです。本作にも魅力的ものがたくさん散りばめられています。
「その人が何を感じているかなんて、その人にならないと分かんないよ」
「八分でも十分でも、飛べるなら飛ぶんだ」
「普通って何?」
「あのな、プロってのは仕事じゃなくてもうまくやるんだよ。プロの料理人は家に帰っても、美味い飯を作る、そういうもんだろうが」
「子供作るより友達作るほうがはるかに難しい」
「作業は一つずつ、こなしていけばいいんだよ」
「相手がつらそうにしてるのを見るのって、あんまり楽しくないんですよ」
「レバーをドライブに入れておけば、自然に前に進むから」
「人を騙すには、真実とか事実じゃなくて、真実っぽさなんですよ」
「どうにか耐えて、生き残れ」
こんなふうにして、この小説は「伊坂ワールド」にどっぷりと浸らせてくれます。
一度読んだなら、「溝口」「岡田」の裏家業コンビの魅力にとりつかれること間違いなし。
おわりに
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