目次
あらすじ
殺された老人の庭から忽然と消えた「禁断の花」。
50年前の殺人、10年前の初恋、黄色い花をめぐる宿命が、ひとつにつながる。
「こんなに時間をかけ、考えた作品は他にない」と著者・東野圭吾自身が語った自信作。
第26回柴田錬三郎賞受賞。
感想
黄色いアサガオは、江戸時代のイラストには記録されていますが、現在には伝わっていません……と書いたところで、どこかの研究チームが再現に成功したというニューズを以前耳にしたかもしれない、と思い出しました(調べたらサントリーの研究者たちでした。すごい)。
黄色いアサガオは、最重要アイテム「禁断の花」として、『夢幻花』に登場します。
殺人事件で、「禁断の花」で、それが現場から無くなっていた……というヒントを与えられたとしたら、もしかするとカンの良い方は気づくかもしれない。定期的にこういうことはニュースで報道がありますし。そういうことです(目くばせ)。
さて、本書のテーマは「宿命」です(たぶん)。だったら「宿命」というタイトルでいいじゃないか……と思いましたが、東野圭吾は過去に『宿命』という作品を発表していたのでした。宿命を感じた二人の小説です。
【関連リンク】「東野圭吾『宿命』あらすじと感想|最後の一文のために読む」
人は「だめだ」とか「やめなさい」とか「禁止です」とか「追いかけるな」とか言われると、言われなかった状態よりもむしろやりたくなってしまうような性質があります。
スティーブ・ジョブズのことだけは絶対に考えるな!!と言われたとしたら、あのメガネをかけたアップルの人を想像しないではいられません。
本書で扱われているのも、そのような「宿命」です。
人は「禁断」を知ってしまったら、それから目を背け続けることができない。
その束縛は、「あのことは禁断だよ」という言葉を発した側も、その言葉を聞いてしまった側も、どちらも平等に受けることになります。
「禁断の花」を知ったときから、それを知ってしまった者たちは、それが悪用されないように、それが広まってしまわないように、監視し続ける「宿命」を背負わなければならなくなりました。
「禁断の花」を知ったときから、それを知ってしまった者たちは、それを自らの欲望の増幅装置として利用するという、人間の弱さともいうべき「宿命」に抗うことが不可能になりました。
覆水盆に還らず。
私たちは、どんなに願っても、ある物事を知る自分に戻ることができない。
世の中には、知らなくてもいいことがある。
できれば「負の遺産」は誰も受け継がなくていいような世界がいい。
そんなふうに私は思います。
おわりに
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