※引用はすべて講談社文庫による
目次
あらすじ
高校時代の初恋の女性と心ならずも別れなければなかった男は、苦闘の青春を過ごした後、警察官となった。
男の前二十年ぶりに現れたのは学生時代ライバルだった男で、くしくも初恋の女の夫となっていた。
刑事と容疑者、幼馴染の二人が宿命の対決を果たすとき、あまりにも皮肉で感動的な結末が用意される。
(裏表紙)
主人公・勇作は刑事であり、瓜生正清の殺人事件の担当になった。
勇作は学生時代に「宿命を感じた」男・晃彦が容疑者のひとりになっていることを知る。
さらにその妻が、忘れることのできない恋愛をした相手・美佐子だった。
事件を捜査しているうちに殺害方法やその動機が明らかになっていく。
その根底には勇作や晃彦、さらには美佐子も巻き込んだ「宿命」が存在していた……
ネタバレ
正清をボウガンで殺したのは部下の松村だった。
松村は以前人の感情を操る人体実験に参加し、その経験を悔やんでいた。
正清はその実験を復活させようとしたため、松村によって殺された。
晃彦は松村と共謀したわけではなかったが、彼のボウガンの矢を毒矢にすり替えておいた。松村はそれを撃った。晃彦は今も生きている人体実験の犠牲者たちの生活を守ろうとしたのだ。
「今も生きている三人の犠牲者たちのことを、須貝に知られないことが大切だった。
彼等のことを須貝が知れば、必ず接触するに違いないからだ。
我々はあの三人の生活を守る義務がある」
「一人はあんたの義理の父親だしな」
(358頁)
晃彦の妻・美佐子の父親もかつての実験台だった。
晃彦はそれを知り、罪滅ぼしのために美佐子に近づいたが、プロポーズはそういう意図ではないという。
「出会いのきっかけはそうだった。
父がしてきたように、被害者たちへの償いをするという意識で彼女と会ったんだ。
しかし――」 晃彦はかぶりをふった。
「罪滅ぼしや同情で結婚したのではない。
そんなふうにして彼女の人生を歪める権利は、僕にはない」
(369頁)
晃彦も勇作と同じように美佐子を愛していた。そして晃彦は自分と勇作が双子の兄弟であることを明かす。
晃彦の声が勇作の耳を抜けていく。
勇作は足元にぽっかりと穴が開いたような気分を味わっていた。
「何だって」と彼はもう一度いった。
それに対して晃彦は何もいわず、ただ何度も首を縦に動かしていた。
(366頁)
勇作は最後にひとつ質問をする。
「最後にもう一つ訊いていいかな」
「何だい」
「先に生まれたのはどっちだ?」
すると暗闇の中で晃彦は小さく笑い、
「君の方だ」と、少しおどけた声を送ってきた。
(371頁)
最後の一文は作者が「今回一番気に入っている意外性」と語っている。
感想
『宿命』は過去に宿命づけられた二人が、どのようにして自分たちは宿命づけられたのかを知る物語だ。
作中の全ての事件は彼らが宿命を知るためのヒントであり、また宿命を受け入れていく過程でもある。
作者・東野圭吾が「構想3ヶ月、執筆2ヶ月」というように、綿密な計算で書かれた小説だ。
登場人物一人一人に過去がしっかり設定されており、まさに東野圭吾が「全力投球」した作品であるといえる。
名言
ところで結婚してくれませんか
(23頁)
「自分にどういう血が流れているのかは関係ないんだ。
重要なのは、自分にはどういう宿命が与えられているかだ」
(368頁)
おわりに
「おすすめ小説リスト」はこちらから。
記事に対する感想・要望等ありましたら、コメント欄かTwitterまで。