川村元気『世界から猫が消えたなら』読書感想文

※引用はすべてマガジンハウスによる

目次

あらすじ

世界から、もし猫が突然消えたとしたら。
この世界はどう変化し、僕の人生はどう変わるのだろうか。
世界から、もし僕が突然消えたとしたら。
この世界は何も変わらずに、いつもと同じような明日を迎えるのだろうか。
(「まえがき」4頁)

 

 

 「僕」の寿命はあとわずか。
 目の前に悪魔が現われ取引をもちかける。

 

 世界から何かひとつ消すたびに、自分の寿命が1日延びる。
 1個1日。365個で1年。
 ただし消すものは悪魔が選ぶものとする。

 

 悪魔の言うとおりに「僕」は消すことを決める。
 電話、映画、時計、そして猫。

 

 ものが消えることで「僕」は何を失うのだろうか。
 生きる切なさと温かさを気づかせてくれる一冊。

 

書評

 

 もし自分がもうすぐ死んでしまうと知ったなら、私はなにをするだろうか。

 

 『世界から猫が消えたなら』の主人公は寿命のために何かを消す。
 悪魔は、消す前に一度だけそれに触れてよいと言う。

 

 「僕」は誰かに電話をしたり映画を借りに行ったりする。
 そこで「僕」はそれについての記憶を思い出す。
 それは彼の胸を締め付ける。

 

 今まで生きてきて、どうしてそれを大事にしてこなかったのか。

 

 命が終わる直前に「僕」が気づいたこと。
 そして、猫が消えたら世界はどうなるのか。

KKc
 「生きることとは?」そんなメッセージを感じた。

 

著名人のコメント

※小学館HPより

さらりと、凄いことを書いている小説だ。
頭で考えた文章ではなく、
感じるままに書きなぐった言葉が、
ストレートに突き刺さる。
川村元気の小説は、音楽だ。
秋元康(作詞家)

KKc
読みやすい小説なのに心に来るものがあります。

 

181ページ4行目からの「言葉」に、
胸を打たれた。
あの主人公のお母さんの気持ちを、
僕は、いつか産まれてくる子供に
抱くことが出来るだろうか。
もし同じように想えたら、僕の生涯は
最高のハッピーエンディングだ。
SEKAI NO OWARI Fukase
(ミュージシャン)

KKc
  「セカオワ」Fukase氏のコメント。
 この小説は「セカネコ」と略すらしいので、それ繋がりでしょうか。

 

名言

 

「今日、僕はチョコレートのために命を捨てます!」
(31頁)

 

「か、考えるな! か、感じろ!」
(102頁)

 

「私、悲しい結末の映画を観ると、
必ずもう一回観直すことにしている。
なぜだか分かる?」
(115頁)

 

 

【読書感想文】原稿用紙3枚(1200字,60行)

KKc
欠けた世界を想像すること

 

 『世界から猫が消えたなら』の主人公は、死にかけです。何かを消さなければすぐにでも死んでしまう状態にあります。

 

 寿命があとわずかの「僕」の前に現われた悪魔は、取引をしようと言います。何かひとつを世界から消す代わりに、寿命を一日延ばすことができるというのです。ただし消すものは悪魔が選ぶものとする。

 

 この小説のすごいところは、読んだ人がほとんど全員「自分にとって、何が消えるくらいだったら死ぬだろうか」と考えてしまうことです。ほとんど強制的にそう思ってしまう魅力が、この作品にはあります。読んだあとに「あ~おもしろかった。次は何を読もうかな」とそれっきり二度とページを開かれない本は、あまりよい本とはいえません。だから『世界から猫が消えたなら』はそういう意味でとてもよい本です。

 

 そしてもうひとつ、私がこの作品を読んで感じたことは、何かの大切さは、それが”ある”ということからではなく、それが”ない”ことからしか理解することができない、です。

 

 勉強の大切さは、テスト当日になって答案用紙に何も書けないことから、理解されます。体力づくりの大切さは、スポーツの試合で終盤息切れしてはじめて理解されます。水の大切さは断水になって、電気の大切さは停電になって、あらためて理解されます。

 

 何かの大切さは、何かを失うことでしか気づくことができません。
 でも、それが欠けた世界を前もって想像することもできます。そうやって、何かを大切であると前もって気づくことで、その喪失を避けるための手段だとか、なくなったあとの行動を考えることができます。

 

 私が好きな音楽にClarisの『border』という曲があります(作詞:meg rock)。その歌詞の中に『世界から猫が消えたなら』と共通するものを私は見ます。

 

 <いつも通りの当たり前の日々をいつまでこんな風に過ごせるのだろう>
 <君のいない、そんな世界になってはじめて、今日という日を後悔するなんて嫌だ>

 

 「いつも通り」という状態はふだんあまり自覚されませんが、とてもあやういものです。急に誰かがいなくなるかもしれないし、危機が侵入してくるかもしれない。自分が明日死ぬかもしれない。

 

 だからこそ、「今日」という日を後悔しないように、未来の自分がそんな世界に生きることがないように、毎日手を抜かずにさまざまな選択をしていかなければならないのだと私はと思いました。世界から猫が消えるのならば、いまのうちにせいいっぱい猫を愛でておこうと思います。

(58行,原稿用紙2枚と18行)

おわりに

KKc
お読みいただきありがとうございました。

 

過去に書いた「読書感想文」はこちらから。

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