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「なんかすごかった」感
減るもんじゃねーだろとか言われたのでとりあえずやってみたらちゃんと減った。私の自尊心。
返せ。
という書き出しから魅力を感じるなら、きっと満足のいく読書になる。
始まりはある女子高生の現実。そこから展開される物語は、たぶん予想の9マイルくらい上空。9マイルってけっこう遠いですね。まぁとりあえずそれくらいぶっ飛んでいるということで。
『阿修羅ガール』を読んだ感想を、そのまま文字に起こすことのできる人はとても少ないと思います。私も含めて、おそらく大多数の人が「なんかすごかった」みたいなことしか書くことができないはず。
これってすごくないですか?
私たちはとてもつまらない本を読んだとき、それについてぜんぜん語りたくなりません。正確に言うと、語ろうとする気持ちが一瞬でも心に表れません。
つまらない本のひとつの定義は「それについて忘れるために一切の努力を要さないこと」(@内田樹)です。
『阿修羅ガール』はその定義の対極にあります。誰もが読んだ後に自分の感想を言いたくなる。
でも『阿修羅ガール』が他の本と違うのは「読者が何を語ったらいいのかわからないこと」です。
すごいことはわかる。
でも、なにがすごいのか、どうしてすごいのかが、わからない。
このような作品はめったにありません。
と、言い切ったところで三島由紀夫賞を受賞していたことを思い出して、選考委員は何と言っていたかを確かめにいく。
案の定……
言葉に長けていると思われる方々ですら、『阿修羅ガール』を語るのに苦労されている。
『阿修羅ガール』はそんな作品です。
たぶん、よくわからないですよ。
(696字)
作品情報
著者:舞城王太郎
情報:第16回三島由紀夫賞受賞