目次
あらすじ
イスのデザイナーになりたい男・大木戸真は中3の春に中高一貫校に編入する。
真はイス職人修業中の早川梨々と知り合う。
ふたりは意気投合し、イスのデザインコンペに挑戦することを決めた。
才能と情熱と努力を武器に大人の世界に乗り込む彼らの成長ストーリー青春小説。
読書感想文(2000字、原稿用紙5枚)
私はバドミントンをしています。
あるとき試合中に腰を痛めてしまい、それ以来、イスに座るときは腰に負担がかからないかどうかを気にかけるようになりました。
背もたれについてはあまり注意をしていませんでした。
この小説の題名『一〇五度』というのは、イスの背もたれの角度のことです。
半熟ゆで卵がおいしくできるお湯の温度かな?と思いましたが、ちがいました。
時計の針の角度でいうと9時2分30秒くらいでしょうか。
直角よりは寄りかかれるけれども、そこまで寄りかかれない。
寄りかかるのは、少しだけ。
その「少しだけ」が人間の身体にとって心地がいいようです。
誰かにすごく寄りかかるというか、その人だけをものすごく頼りにするのは、頼った人にとっても頼られた人にとっても、あんまりよくないと私は思います。
パンチで人間を2メートル吹き飛ばすことのできる人だって、やさしさがないわけじゃない。
人間だれだって、多少のやさしさ程度は持ち合わせていると思います。
大切なのはやさしさの加減です。
病弱だからとすごく甘やかしたり、自分で選んだことなんだからと一方的に突き放したりするのは、やさしさの加減ができない人のすることです。
私はやさしさの加減が適切にできる人を大人と呼びたいです。
さて、青春時代を生きている中学生くらいの人にとっては、まだやっぱりその、やさしさの加減が難しいというか、経験不足なところがあるような気がします。
真や梨々は、子どもでありながら大人のイスデザイナーも参加するような大会に挑戦します。
圧倒的に経験値が足りないながらも、才能とひらめき、努力によって補いながら立ち向かう姿はすばらしいと思いました。
ところで、誰かと同じ目標に向かってがんばることはいいですけれど、そうなった場合は、自分ひとりのときとは違って、相手のことも十分考えないといけません。
自分は朝早く起きてやっているのに、どうして相手はいつも遅く来るんだ、とか。
自分はこれが最高の答えだと思っているのに、どうして相手はそれを受け入れてくれないのか、とか。
自分がやらないと決めたことを、どうして相手はそんなに一生懸命やっているのか、とか。
誰かと何かを進めていくためには、なにかと意見や行動、考え方や価値観の違いが出てくるものです。
たぶんそれは当たり前のことだと私は思います。
そんなとき、イスでいうと一〇五度以上に寄りかかっているような精神状態だと、いずれその関係は終わりを迎えてしまうだろうとも思います。
大切なのは自分を押し通すことなく、一〇五度の関係を保つこと。
イスの角度も人間関係も、心地いい、最適な角度を見つけてそれをなんとかキープしていくこと。
真にとっての梨々のように、自分のことを理解してくれる人は大切にしたいものです。
イスは人間を支えるためにできていますが、人間は人間を支えるためにはできていません。
人間は人間を支えそして支えられるためにできています。
一方が一〇五度で寄りかかったら、もう一方も一〇五度で寄りかかるのが、ちょうどいい関係だと思います。
「寄」りかかる「木」は「椅」子と呼び、「人」に「寄」りかかると「倚」るという意味になります。
「倚る」は「依る」と同じような意味で、誰かに頼るようなニュアンスがあるようです。
イスについて考えることは、誰かに頼りそして頼られることについて考えることといっしょなのかもしれません。
誰かを頼るときは「イーッスか?」
誰かに頼られたときは「イーッスよ」
そんなふうに、気軽に生きていきたいものです。
(1478字、原稿用紙4枚と9行)
おわりに
佐藤まどか『一〇五度』を含む「2018年読書感想文課題図書のまとめ」はこちら
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