『車いす犬ラッキー』読書感想文|命の刹那連鎖

目次

あらすじ

舞台は日本。鹿児島。奄美群島。徳之島。

50年間仕事だけに生きて来た男が、一匹の捨て犬と出会う。

めぐりあいは奇跡。

人と犬との心温まる交流を通して命の意味を考えるノンフィクション小説。

読書感想文(2000字、原稿用紙5枚)

KKc
命の刹那連鎖

 

 犬は年をとればとるほどかわいくなる、という意見を最近知りました。

 

 

 おじいちゃん犬やおばあちゃん犬ほどかわいいと、その知見を私に教えてくれた知己は言いました。

 

 

 実際、その人は犬を飼っているのですが、生まれてから15年ほど年を重ねているらしく、年々かわいくなってきてどうしよう!と嬉しい悲鳴を上げていました。スマホで写真も見せてもらいました。

 

 

 そんなにかわいいと連呼するなら一度会いに行かせてくれませんか?と頼み込んだところ、おじゃまする機会をいただき、件の犬と対面することができました。

 

 

 結論から申し上げると、かわいかったです。

 

 

 ただ、加齢によってかわいさが増すという現象は、初対面であったため、確認・検証することができませんでした。また何ヶ月か後に訪れられれば、あるいは。

 

 

 加齢と愛くるしさの比例関係が主観的に観察される原因としては、単純に、長年一緒にいることにより愛がはぐくまれた結果によるものかもしれません。

 

 

 飼えば飼うほどいとおしさが増えていき、どんどんかわいくなっていく。練れば練るほど色が変わって……の駄菓子ではありませんが、過ごした時間が積み重なることによって愛情が増していく現象は人間関係においてもよくあることです。

 

 

 『車いす犬ラッキー』の飼い主も、そのような心の動きを体験しています。

 

 

 彼はそれまでの人生50年で一度も犬を飼ったことがないのですが、捨て犬(のちのラッキー)を拾います。

 

 

 常識的に考えて、それまで未知の存在であった生き物に対して、最初の最初から(めちゃめちゃこいつかわいいじゃん!)という感情はまったく溢れてこないと思います。

 

 

 彼はラッキーと関わることで、だんだん心魅かれていきます。

 

 

 会えない時間は愛を育てますが、会っている時間も同じように愛を育てるものです。

 

 

 また、何かを飼うこと、お世話することは、一方的な営みではなくて、相互的な営みであると私は考えています。

 

 

 何かに影響を与えるものは、同時に何かに影響を受けるものです。

 

 

 人間も何かに影響を与えるときには、それと同時に何かから影響を受け、それによって、そのときどきで、常日ごろから、変わり続けています。

 

 

 たとえそれが観察することが困難な微小な変化であったとしても、確実に、人間は一分一秒ごとに変わり続けています。否応なく。

 

 

 中学生のとき、理科の授業で作用と反作用の実験をしました。

 

 

 実験ではふたりが向かい合ってそれぞれローラー付きのイスに座り、片方が力を加えてもう一方を押します。もちろん足は地面から離しています。

 

 

 押すために力を加えると、当たり前のように思われますが、押された人だけでなく、押した人も後ろに動いてしまいます。

 

 

 何かに作用することで同じだけの力を受けるという自然の摂理は、物理的のみならず心理的にもこの世界を貫く基本ルールとして適用されています。

 

 

 『車いす犬ラッキー』でいうと、ラッキーは「車いす犬」であるがゆえに周囲から影響を受ける(介護を受けるなど)と同時に、周囲にさまざまな影響を与えています(ラッキーとの出会いで生き方が変わったなど)。

 

 

 誰かに優しさを向けるのは、それと同時に自分に優しくすることとほとんど同義です。

 

 

 誰かを傷つけるふるまいを行うのは、自分自身を傷つけることとほとんど同じです。

 

 

 「自分を変えるということは、世界を変えることとほとんど同じ」と「世界の終わり」も歌っています。

 

 

 ラッキーを車いす犬にしたことで飼い主が変わり、島の周囲の人々も変わってゆく。そしてそれをノンフィクションの本にすることで、『車いす犬ラッキー』を読む人が生まれ、読者の人生が変わり、連鎖的に世界が変わっていく。

 

 

 読書感想文を書くことでそのような刹那の連鎖に気づくことができ、とてもラッキーだったとしみじみ感じています。

 

 (1561字、原稿用紙4枚と8行)

おわりに

KKc
お読みいただきありがとうございました。

 

小林照幸『車いす犬ラッキー』を含む「2018年読書感想文課題図書のまとめ」はこちら

そのほかの「読書感想文」はこちらから。