羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』800字書評

あらすじ

 健斗の祖父は要介護老人。毎日「早う迎えにきてほしか」とぼやく。
 無職の健斗は就職活動のかたわら、筋トレと介護とデートにはげむ。

 

何を壊し何を創造したか

KKc
羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』の800字書評です。

 

 ある本について書く際の最も基本的なアプローチは「タイトル(の意味)について書くこと」です。
 この本は『スクラップ・アンド・ビルド』です。
 スクラップとは壊すことで、ビルドは創造することです。
 この作品では何を壊し、何を創造し(ようとしてい)たのでしょうか。

 

 主人公・健斗は87歳・終末期にある祖父と暮らしています。
 彼は祖父を疎ましく思っていますが、直接手を下して殺そうとは思いません(ふつうの小説だったら殺害計画を入念に練り実行するはず)。

 

 ではどうするかというと、祖父を間接的に死に到らせようとします。
 過剰な介護をすることによって祖父の筋肉や骨を弱らしめ、生存に必要な肉体を「壊」そうと健斗は計画します。一方で自身は筋トレに励み、健康的な身体(と精神)を「創造」しようと努力します。

 

 『スクラップ・アンド・ビルド』ではこの祖父の「破壊」と健斗の「創造」が主軸です。このふたつが成就するかどうかが大きな関心になっています。
 結果的に言うと企ては両方とも失敗します。
 健斗が弱らせたと思っていた祖父は俊敏にピザを食べることができ、肉体改造を通して強くなったと思っていた健斗の心は、就職に不安を感じます。

 

 畢竟、なにかを破壊したり創造するためには、けっこう長い時間がかかるのです。
 あまり時間が経っていないときに(そろそろかな?)と思っても壊しきれていなかったり、土台がどろどろで固まっていなかったりします。

 

 この文章も、できれば3日くらいかけて「ビルド」すればいいのでしょうけれど、いつも「どろどろ」なときに公開してしまいます。私も健斗と同じですね。

(690字)

 

作品情報

著者:羽田圭介
情報:第153回芥川賞受賞

 

おわりに/h2>

KKc
お読みいただきありがとうございました。

 

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