【800字書評】西加奈子『さくら』|春が終わると散る花の名は

春が終わると散る花の名は

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西加奈子『さくら』の800字書評です。

 

 この世に永遠に続く幸せはない。

 

 私は『さくら』を通してそのメッセージを受け取りました。
 春が終わると散ってしまう桜の花のように、幸せはいつまでも続くものではありません。ただ、人はなんとかして、その幸せを継続させようと努力します。

 

 花は散るから美しいのだ、と頭ではわかっていても、どうにかしてその美しさを、そこから得られる感動を、長く楽しんでいたいと思ってしまいます。

 

 『さくら』は作中で家族の崩壊が描かれています。
 温かい家族の幸せも、当然永遠に続くものではありません。兄の死によって『さくら』の長谷川家はばらばらになります。誰もが変わらざるを得ない状況へ、物語はなだれ込んでいきます。

 

 ただし、その中でも唯一変わらない存在があります。

 

 それは飼い犬の「サクラ」。
 時が来るとその美しさを消してしまう「桜」の名前を掲げるその犬は、家族の崩壊に巻き込まれるも、けなげに、ただ存在し続けます。
 それは、散ったといえども来年また花を咲かせる準備を密やかに始めている現実の桜の樹のふるまいとぴったり重なって見えます。

 

 当たり前だと思っていた日常・そしてその幸せは、ふとしたことで崩れてしまうけれど、いつかまた取り戻すことができるかもしれない。
 崩壊に立ち会ったときに私たちにできることは、「サクラ」のように辛抱強くそこに存在し、また視線を未来へ向けて、動き続けることです。

 

 たとえ瓦礫に埋もれたとしても、そこに桜を咲かせることはできます。
 大事なのは「これからどうするか」。
 永遠に続く幸せがないのなら、次々に幸せを見つけていくことが、生きるうえでのひとつの道だと私は思います。

(698字)

 

作品情報

著者:西加奈子
情報:2006年本屋大賞10位

 

おわりに/h2>

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お読みいただきありがとうございました。

 

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