羽田圭介『メタモルフォシス』800字書評

変態は変態により変態する

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羽田圭介『メタモルフォシス』の800字書評です。

 

 ”metamorphosis”(メタモルフォシス)とは広辞苑第五版によると、「変形すること、著しい変化を遂げること、動物が孵化した後成体になるまでに異なる姿をとること」。

 

 『メタモルフォシス』の主人公は変態する。
 昼間は証券会社に勤めるサラリーマンである。金融知識の乏しい高齢者に、あこぎな金融商品を売りつけて回る。
 勤務が終わった夜間は「夜のお店」へ。「女王様」にひざまづく「奴隷」となる。

 

 『メタモルフォシス』での変態(動詞)とは、この昼から夜、夜から昼への彼のふるまいの変化をあらわしている。
 一般的な意味での「変態」もたぶん含まれている。自発的に奴隷に身を落とし、女王様に虐げられることを欲望するなんて変態である。

 

 しかし作中では「ふつうの」カップルが公然といちゃいちゃしているのを「変態だ」と毒づくセリフがある。「自覚的な変態」と「無自覚な変態」は無自覚な変態のほうが劣等だ、という立場からの発言である。

 

 はたから見ると劣等も優等もなく、どちらも「変態」である。ただ自覚的な変態は、それが自己の決定によってなされたものであることから、後悔しない種類の「変態」であると思う。なにか悪いことをしてしまったら、反省はしなければいけないけれど。

(531字)

 

作品情報

著者:羽田圭介
情報:第151回芥川賞候補作

 

おわりに/h2>

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