額賀澪『タスキメシ』読書感想文|マリカーを通して大人になる

あらすじ

 兄・早馬と弟・春馬は陸上部。
 早馬はケガのためリハビリ中。料理部の都と親しくなり、春馬の体調管理のために料理を学んでいく。
 兄と一緒に走っていたいと思う春馬と、故障を抱えながら走ることの不安と弟に負ける恐怖から陸上を辞めようと思う早馬。
 青春と葛藤が入り混じる新しい「箱根駅伝×料理」の物語。

【読書感想文】原稿用紙5枚(2000字,100行)

KKc
マリカーを通して大人になる

 

 なんてタイミングがいいのだろう、と思いました。

 

 兄・早馬は弟・春馬より自分の方が劣っているのかもしれない……と感じ始めたそのときに脚を負傷します。実力の優劣がはっきりと目に見える形で決着するその前に、都合よく勝負自体が行われなくなりました。

 

 小説だから、と言ってしまえばそれまでですが、ケガをするまではいかなくとも、私たちは日常的にこのようなことを行っていると思います。

 

 ツイッターのフォロワー数がヤマダくん(仮名)に負けそうになったとき、自分のフォロワーが増えないようにカギをかけたりします(鍵アカだからフォロリク来ないんだよね~)。

 

 マリオカートのタイムアタックでサトウくん(仮名)に自分の記録が塗り替えられそうになったとき、(もう飽きたわ~)とスマブラをやり始めようとしてみたり。

 

 私たちは自分のプライドを守るために、しばしばそのような行いをしてしまいます。努力だけではどうにもないことが世の中にはあります。そういう物事に直面したときは、さっさと逃げてしまうのが正しい選択肢だと私は思います。

 

 「逃げる」という言い方がネガティブだったら、「違う道に進む」と言い換えてもいいです。『タスキメシ』において、早馬は料理の道へ走る方向を変えました。

 

 自分の限界を感じるときは(ほぼ)誰にでも訪れます。避けようと思っても避けられません。大切なのはその事実が見えないフリをしながら自分を偽って生きていくことではなくて、それを受け入れ、新しい別の考え方をすることだと私は思います。

 

 フォロワーの数だけにこだわるのではなくて、面白いツイートをすることにやりがいを感じたり、キレイな写真を投稿することに価値を感じるとか。タイムアタックで負けたとしても、素直に相手を賞賛するとか。あとは勉強に目を向けて、東大を目指すとか。

 

 そのようなふるまいをすることができるようになった人のことを私たちは「大人」と呼びます。ただ不器用にがむしゃらに生きていく人のことを大人とは呼びません。「負けたときに適切なふるまいができる人」を大人と呼ぶのだと私は思います。

 

 そういう視点で眺めると『タスキメシ』は、「登場人物たちが大人になるための物語」と言うこともできます。

 

 早馬も、春馬も、都も、助川だって、最初は未熟な高校生でしたが、箱根駅伝へ至る物語を通し、成長していったという見方ができると思います。

 

 <欲張れ、早馬。どちらか片方じゃなくて、どっちも抱えて持っていけ。スポーツ栄養士でもなんでも目指すがいい。そして、走ることを思い出せ。諦める勇気があったんだ。続ける恐怖なんて、きっと乗り越えられるんだ、お前は

 

 私は(そんなにがんばらなくてもいいよ)と思います。たとえスポーツ栄養士になれなくたって、人生はきっとよいものになるはずです。彼は挫折を経験したことで「大人」になったのですから。

 

 努力だけではどうにもならないことはあります。それゆえに悩み、模索していくことで、豊かな人生を送ることができるのだと私は思います。ただタスキを繋ぐために陸上の練習を重ねるだけではなく、そこに「メシ」が加わることによって、『タスキメシ』は総合的により良い箱根駅伝の小説となりました。

 

 あまり関係ありませんが、「好き嫌いなく食べなきゃ、立派な大人になれないぞ」と小さい頃言われたような気がします。私も『タスキメシ』のようなちゃんとしたメシを食べようと思いました。

(81行,原稿用紙4枚と1行)

 

おわりに

KKc
お読みいただきありがとうございました。

 

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