目次
あらすじ
姿を消した女性は教団の中へ入った。
教団は2つに分かれている。「松尾」を中心とし「世界の肯定」を標榜する「ゆるい」グループと「沢渡」を中心とし「世界の否定」を指向するカルトな「教団X」。
対照的な2人の教祖と4人の男女。彼らの運命は絡まりあい、国を揺さぶる、根底から。
光と闇。革命の予感。悪とは何か。神とは何か。運命とは何か。人間とは何か。世界とは何か。
<あなたは、私がつかむことのできなかった、もう一つの運命だったもの>
感想
『教団X』はカルト教団が主軸だが、さまざまな要素が練りこまれ、混在している。読む前からページ数が多く単行本の厚みに圧倒される。
著者の頭の中では統括され、全体像を描けているのだろうが、一般的な読者にそれらをすべて理解するのは難しい。
宗教(キリスト教、仏教、リグ・ヴェーダ、部族宗教)、量子力学、生物学、物理学、テロリズムとナショナリズム、貧困問題、戦争の経済効果、暗躍する公安、政治史、地政学、日本論、国家権力の介入、宇宙創造と超ひも理論、運命と因果律……。読書中は多角的に、重層的に、包括的に、膨大な知識の波が押し寄せる。「読み応えがある」といえばそれまでだが、読書体験をしっかり消化できる読者はどれだけいるのかわからない(かくいう私もその一人)。
著者・中村文則はインタビュー(「集英社による著者インタビュー」)において『教団X』を「最高傑作です」と自画自賛している。
著者がそう感じているとしても、読者がそう感じるとは限らない。
中村文則の小説は「純文学」として位置づけられるものであって、「大衆文学」ではないと私は思う。テレビ番組や本屋大賞で紹介されたからといって、むやみに大衆文学の読み手が手を出すべき作品ではないはずだ。「人を選ぶ」作品である。(合わないな)と感じたら無理に読み通す必要はない。
こういうことは何度書いても書きすぎるということはないと思っている。老婆心ながらここに書き留めておく。