宮部みゆき『英雄の書』感想

※引用はすべて光文社カッパ・ノベルスによる

目次

あらすじ

 

 現代日本で、もっとも物語に愛されてきたベストセラー作家が、
 深遠なる禁忌に挑む!
 森崎友理子は小学生。
 中学生の兄・大樹が、学校で同級生をナイフで刺し、
 そのまま逃走、行方不明になった。
 友理子は兄が心配で、彼のしたことが信じられなくて、
 途方に暮れる。
 そんな彼女に、優しく語りかけてくる本があった。
 本が言葉を話す!?
 それが、兄を救い出すべく、彼女が旅立つ壮大な冒険のはじまりだった……。
 なぜ私たちは、物語を紡ぐのか。英雄を求めるのか。宮部みゆき、最大の問題作にして、究極の破戒作!
(裏表紙)

 

 小学五年の友理子の兄・大樹は、クラスメイトを刺し失踪した。
 兄を心配する彼女は、彼の部屋で「本の声」を聞く。
 「君のお兄さんは『エルムの書』に触れ、“英雄”に憑かれてしまった」。

 

 それを知った妹は兄を救い出すべく“無名の地”へ旅立った。
 その地で友理子は“印を戴く者(オルキャスト)”となり「ユーリ」と名を変える。

 

 彼女は次に『エルムの書』発祥の地ヘイトランドへ向かう。
 そこで従者のソラ、ネズミのアジュ、謎の“狼”アッシュと同行することになる。
 ユーリらを待ち受ける過酷な試練とは──。

 

 

感想

 

KKc
 ※ネタバレはありません。

 

 これはファンタジー小説なので、作品中の独特な世界観にどれだけ感情移入できるか、ということが大事です。

 

 宮部みゆきはそのあたりが巧みで、主人公のユーリはわからないことをどんどん質問するし、ネズミのアジュは感情が豊かだし、”狼”のアッシュはとてもかっこいい。

 

 また物語は、私たちの住むような日常世界から、だんだん非日常の世界へ舞台を変える。

 

 そのさいも、急に変化が起こるのではなくて、ていねいにゆっくり場面や時間が変わっていく。

 

 なので『英雄の書』は読者に優しい、読みやすいファンタジー小説だ。

 

 「宮部みゆきはサスペンスや時代劇が得意分野じゃないの!?」と遠ざける必要はまったくない。

 

 彼女のファンタジー作品をまだ読んでいない方にこそ、おすすめしたい小説作品だ。

 

名言

 

 「何が善で、何が悪いものか。
 その境界を、どこに引く?」
 (102頁)

 

 人間は、自分で物語を作るんです!
 創造して、想像して、作り上げるんです!
 (160頁)

 

 嘘がなかりせば、人間は生きられぬ。
 人の世は成り立ちませぬ。
 物語は人間に必要とされる、
 人間を人間たらしめる必須の嘘なのでございます。
 (163頁)

 

おわりに

KKc
お読みいただきありがとうございました。

 

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