芥川龍之介『河童』読書感想文|人間に疲れたときに

目次

あらすじ

 

 これはある精神病院の患者「第二十三号」が誰にでもしゃべるお話。

 彼はあるとき山登りの途中で河童を見かけた。

 追いかけて穴に落ちたその先は、河童の国だった。

 第二十三号はそこでさまざまな河童と出会う。

 彼は河童の国がいやになったので人間の国に戻るが、そこで精神病院に入れられてしまう。

 

【読書感想文】原稿用紙5枚(2000字,100行)

 

KKc
「第二十三号の強さともろさ」

 

 『河童』をはじめて読んだとき私は「でてくる河童が多すぎてわけがわからない」と思いました。

 

 チャック、マッグ、トック、バッグ、クラバック、ゲエル、グルック、ラップ。
 どれも似たような名前だし、みんな同じようなしゃべり方をするので頭がこんがらがりました。

 

 なので今回読書感想文を書くにあたって、ノートに登場河童を書きながら読みました。
 おかげで頭がすっきり整理されて、話の内容をじっくり考えることができました。

 

 『河童』の中でいちばん印象に残ったのはバッグの奥さんの出産の場面です。
 正確には生まれていないので出産ではありませんけれど。

 

 河童はお産のときに、生まれるかどうかを自分で選べます。
 バッグは奥さんのお腹に向かって「お前はこの世界へ生まれてくるかどうか、よく考えて返事をしろ」と訊きます。
 バッグの子どもは「僕は生まれたくありません」と返事をします。そして医者の注射によって母親のお腹は小さくなりました。

 

 私はこれを読んだとき「そうか、河童と違って人間は生まれてくるかどうかを選べないんだな」と思いました。

 

 河童のように生まれてくるかどうかを自分で選ぶ権利がないということが幸せかどうか、私にはまだわかりません。
 けれど「バッグの子ども」は私にとって世の中の「常識」を疑うきっかけになりました。

 

 『河童』には他にも万年筆を盗んだグルックが無罪になった話があったり、仕事をクビになった河童が殺される話があったりします。

 

 どれも私たちの住む「人間の国」では考えられないことです。
 でも、きっと語り手である「第二十三号」が常識にとても疑問を持つような人だから『河童』はそんなお話になっているのでしょう。

 

 私は「河童の国」について語る第二十三号はどういう人なのだろう、と思いました。

 

 第二十三号は精神病院に入れられています。
 そのきっかけは詳しく書かれていませんが、おそらく実在しない「河童の国」を頭の中に作り上げたことだと思います。

 

 普段から常識を「ほんとうにそうなのか」と考えて考えて考え続けて、そうして疑いすぎて、人間の常識がそうではなくなる河童の国があるんだ、と思うようになったのだと私は思います。

 それは「人間の国」にとって「常識」なことではないので、彼は「精神病だ」と診断されて入院させられたのでしょう。

 

 『河童』の最後で第二十三号は「僕はS博士さえ承知してくれれば、見舞いにいってやりたいのですがね」と語ります。
 でもきっと彼は許可が下りても二度と河童の国には行かないと思います。

 

 なぜなら彼が作り上げた河童の国は「出て行くことが自分の責任」というルールだからです。そしてきっと出て行ったからにはもう戻れないという決まりです。

 

 発言を「やめた」と言うのは許されないと彼は考えているに違いありません。
 彼は以前、年とった河童のところで「出させてもらいます」と宣言してしまったので、もう河童の国には帰れないのです。

 

 自分が決めたルールである「出ることは自分の責任。出たからにはその先でしっかり生きる」ということを絶対に破らないと思います。
 第二十三号はとても意志の強い人だと私は思います。

 

 そして私は第二十三号はこういう性格だからこそ入院することになったのだと思います。
 精神が弱くて精神病になったんじゃなく、強すぎたから精神病になったのだ、と。

 

 ここで理科の授業で「ダイヤモンドは硬いけどもろい」と習ったことを私は思い出しました。

 

 そのことを聞いたときはよくわからなかったけれど、今回読んでみてダイヤモンドって『河童』の第二十三号のようなものなのかな、と考えることができました。
 思わぬところで国語と理科の内容がつながって、うれしくなりました。

 (87行,原稿用紙4枚と7行)