目次
あらすじ
パリ市内で複数の女性が殺される事件が発生。
犯人は死体をもてあそび、不可解なメッセージを残していた。
カミーユ・ヴェルーヴェン警部は、捜査を進めるうちに、過去の事件との関連に気づく。
そこに浮かび上がる意外な犯人像とは……。
ピエール・ルメートルの代表作。『その女アレックス』の前日譚(前作)。
感想
カミーユ・ヴェルーヴェン警部は非常に孤独であり、常に怒りを覚えているような人物である。
孤独が怒りを生み出し、怒りが孤独を生み出す。本書で悲しむのはイレーヌではなくカミーユである。
『悲しみのイレーヌ』で描かれているのは、凄惨な事実と、それに対する推測・推理である。
細やかな描写のないことが、かえって想像力をそそる。
想像力。
小説を読むうえで私たちが絶えず働かさせなければならないもの。想像力のない人間に小説を読ませるのは、数字のわからない人間に電卓を与えるのに等しい。
カミーユ警部は身体が小さい。
それゆえ、普通の、標準的な体型の人とは違う視線で世界を見ることができる。
「世界」はそこを生きていると思っている人間の数だけ存在する。
彼がなそうとしたことは、連続殺人犯が見たように「世界」を見ることだった。そしてその「世界」の行く末を予想することだった。
カミーユ警部は世界を変えようとしたのである。たとえその先に悲しみが待っていようとも。
補足。
以前「その女アレックスの記事」で『アレックス』を2回読み、そのあと『イレーヌ』を読み、そして3回目の『アレックス』を読むと書いた。
しかし『アレックス』中に『イレーヌ』の結末が記されている。ある意味ネタバレである。
そのようなことを気にされる方は、本作『悲しみのイレーヌ』を読んだ後で『その女アレックス』を読むのがいいと思います。
たぶん大部分の日本人は、知らず知らずのうちに『アレックス』から読んでしまうでしょうけど(出版順のせい)。
おわりに
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