『星の旅人:伊能忠敬と伝説の怪魚』読書感想文|地図とアンパンマン

あらすじ

伊能忠敬は江戸時代の科学者。

幕府のプロジェクト・リーダーとして任命され、日本全土を測量し地図を作る。

昼はひたすら歩き夜は天体観測。

見えないものを見ようとして望遠鏡をのぞき込んだのかも知れない。

 

読書感想文(2000字、原稿用紙5枚)

KKc
「地図とアンパンマン」

 

 伊能忠敬は日本地図を作った人です。ということは、作っている最中は日本地図がなかったということです。

 

 「地図がない状態」で遠くに出かけるという行動は、私にとってはおそろしいです。地図を持っていても「こっちの方が近道そうだな」とか「一本手前で曲がっても大丈夫だろう」とか考えてしまってよく迷うほどの方向音痴ですので、伊能忠敬のメンタルの強さに感心しています。

 

 グーグルマップで日本地図を見てみると、行ったことのない地名、こんなところにあったんだという島、名前は知っているけれども場所がはっきりしなかった湖などがずらずら発見されます。私にとって地図は「自分のいる場所」よりも「自分がいない場所」について多くの情報を与えてくれるものです。

 

 私は「自分が知っていること」についてより「自分が知らないこと」を教えてもらったほうが楽しい気持ちになります。

 

 アンパンマンは顔がぬれると力が出なくなることよりも、アンパンマンの食事のシーンは絶対に描かれないことを教えてもらった方がわくわくします(アンパンマンは食べ物を「与える側」であって「与えられる側」ではない、が理由だそう)。

 

 アンパンマンは自分の顔を焼くことはできません。彼にできるのは空を飛ぶことや飢えた子どもにパンを与えること、悪さをしている人を見つけること、パンチをおみまいすること、などけっこういっぱいあります。

 

 でも、パンを焼くのはジャムおじさんにしかできません。また、アンパンマンの顔がぬれたときに適切に顔パンを投げかけることもジャムおじさんにしかできません。

 

 アンパンマンは正義の専門家ですが、ジャムおじさんはパン(とパン投手)の専門家です。専門家は他の専門家と一緒に行動することでその真価を発揮します。アンパンマンは自分に何ができて何ができないのか、ジャムおじさんは自分に何ができて何ができないのか、そういうことをお互い開示しあった上でチームを組んでいると思います。その話し合いがうまくできなければ、その後のバイキンマン征伐にあれだけ協調した動きをとることは不可能だったでしょう。

 

 彼らは「自分が何をできるか」言いかえると「自分が地図のどこにいるか」をはっきりと知っています。それができなければ誰かと一緒に何かをするのはむずかしい。

 

 伊能忠敬は事業をはじめる前、地図を持っていませんでしたが「自分が地図のどこにいるかどうやったらわかるか」は知っていました。

 

 一歩一歩自分の歩幅を数えたり、角をまがるごとに距離を計測したり、そういう地道な作業を行った先に自分の居場所を知ることができる。地図がない中でもゴール地点を明確に描くことができる、「今持っている情報」を使って「今持っていない情報」を得ることができる、そんな能力を彼は持っていたと私は思います。

 

 どの方角にどうやって行動すれば地図が作れるか、そのことを知っている人は「(すでに)地図を持っている」のとほとんど同じです。

 

 彼はアンパンマンがジャムおじさんやバタ子さんを求めたように、探検隊に複数の調査員をスカウトしています。地図は持っていませんでしたが、地図を得るために必要な人物や能力は知っていました。自分が知っていることを組み合わせることで知らないことを知ることに長けていました。

 

 私たちは皆、伊能忠敬のおかげで日本の地図を知っていますが、それを他の材料と組み合わせて自分の知らないことを知ることについては個人にゆだねられています。スマートフォンをタップすれば知識は得られるかもしれませんが、その知識をどう使うかは各人によって違います。

 

 アンパンマンは自分にできることとできないことをはっきりと知っていました(彼が製パンしようとした場面を私は寡聞にして知りません)。

 

 自分のできることとできないことを知るということは、誰かと自分の関係性のなかで自分のポジションを知ること、つまり人類の中で自分は「どこにいるのか」を把握することと等しい。いいかえるとそれは「地図を持つこと」だと思います。

 

 伊能忠敬はそういう意味での「地図」を持っていたから地図を作ることができた。アンパンマンは「地図」を持っていたからジャムおじさんやチーズとパートナーになれた。

 

 地図を作るためには「地図」がなければならない。それが『星の旅人』を読んで学んだ「地図」です。

 

(1775字、原稿用紙4枚と17行)

 

おわりに

KKc
お読みいただきありがとうございました。

 

そのほかの「読書感想文」はこちらから。