目次
あらすじ
主人公は脳外科の研修医・碓氷。
実習により高級療養型病院へと赴任したさい、弓狩環(ユカリ)と出会う。
彼女は最凶最悪の脳腫瘍「グリオブラストーマ」だった。
二人は心を通い合わせるが、碓氷は実習が終わったタイミングで地元に帰らざるを得なくなった。
その後彼は病院に戻るが「ユカリは死んだ。そもそも、君は彼女と面識があったのか?」と言われ、物語は崩れるように謎の深みにはまっていく。
感想
「嵐の中で輝いて」は米倉千尋の名曲ですが、「崩れる脳を抱きしめて」は今のところ誰にも歌われていません。どちらも5文字+7文字であり、大変語呂が良く、声に出すと楽しい言葉となっております。
夢野久作の小説『ドグラ・マグラ』で指摘されているように、脳という器官は、私たち人間の身体の中で一等最上のポジションを与えられています。
与えられる栄養という観点からみると、心臓から専用のルートが確立されており、新鮮な血液をいつでも享受しているといえます。
高さ的には最上部であり、最も地面から遠く、身長の高い個体は低い個体に比べ、脳に対して直接的な侵襲を加えられる可能性が低くなっています。
また、脳は堅牢な頭蓋骨に保護されており、さらに、その中にある液体の中に浮かぶように存在しているため、衝撃への防衛力は臓器の中でもトップレベルです。
『崩れる脳を抱きしめて』では「爆弾」という比喩で表現されていますが、脳を崩すのは一般人では爆弾のようなものでないと難しそうです。
『崩れる脳を抱きしめて』の主人公で研修医・碓氷(うひょーとは読まない)は、脳腫瘍だという女性・ユカリと出会います。
ふたりは心を通い合わせますが、研修期間が終わることに伴い、碓氷は実家に戻ります。 そして、ユカリが死んだとの連絡を受けます。
「私は幻だから」
「この日を最後に、僕は二度と弓狩環という女性と会うことはなかった」
「あなたの爆弾を、僕に抱きしめさせてください」
ダイヤの鳥籠から羽ばたいて、死んだという彼女の幻影を追いかけて、そして最後に、崩れる脳を抱きしめたいと彼は言います。
「崩れる」という漢字は、部首が「やまかんむり」であることからわかるように、山が崩れるような状態を示しています。
『崩れる脳を抱きしめて』も、「崩れる」という文言の通り、積み重なり、堆積し、固まっていったミステリー・謎がラストシーンで一気に「崩れるように」氷解していきます。
その「崩れていく」物語をただ読むのではなく、抱きしめるように読むことで、さらに読書の快感を得られるはずです。
おわりに
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