※引用はすべて『中島敦全集2』ちくま文庫による
目次
あらすじ・解説
舞台は『西遊記』に出てくる河「流沙河(りゅうさが)」。妖怪が一万三千ほど棲んでいた。
悟浄は何を見ても、それを素直に受けとることができない。「なぜ?」とすぐに考えてしまい、悩んでしまう。
老いた魚の妖怪がその「病」は「自分で治すよりほかは無い」と言う。
悟浄はさまざまな「賢者」と呼ばれる妖怪に教えをこいに行く。
ふぐの精
悟浄の病因が「死への恐怖」にあると思って訪ねてきてこう言った。
「生きている間は死なない。死ねばその時すでに自分は無い。なにを恐れることがあるか?」
悟浄はべつに死を恐れているのではなかったので、この助言はむだになった。
黒卵道人(こくらんどうじん)
幻術がうまく弟子もたくさんいたが、口にするのは誰かをだまそうとか、宝を手に入れようとかだったので、悟浄は失望して去る。
沙虹隠士(さこういんし)
年をとったエビの精。
世の中には変化しないものは無い。われわれは現在という瞬間の上にだけ立って生きているのだ。という考え方を持つ。
悟浄が「世界とは?」と問うと、「世界とは自己が時間と空間の間に投射した幻であると答える。
悟浄と出会って90日後に腹痛によって死んだ。
坐忘先生(ざぼうせんせい)
坐禅を組んだまま眠り続け、50日に一度目を覚ます。
悟浄が訪ねてから4日目に目を覚ます。「『我』とは何でございましょうか?」と質問をすると、叫び声を上げながら悟浄の頭を棒で叩いた。
めげずに同じ質問をすると「長い間食べていないときに空腹を感じるのがお前だ。冬になって寒さを感じるのがお前だ」と答えて眼を閉じた。
悟浄はさらに50日待った。
次に眼を開けたとき先生は「時とはな、我々の頭の中の一つの装置じゃわい」と言ってまた眠りについた。悟浄は立ち去った。
一人の若者
道の途中で叫んでいる。
「我々にできることは、ただ神を愛し己を憎むことだけだ」と主張する。
子輿(しよ)
道端で悟浄と出会う。
女う先生(じょうせんせい。「う」は「にんべん」に「禹」という漢字)を悟浄に紹介する。
醜い見た目だが、前向きに生きている。
きゅう髯鮎子(きゅうぜんねんし。「きゅう」は「虫」に「収-又」という漢字)
「まずやってから考えよ」と魚をムシャムシャと食べながら言う。
油断していた悟浄も食べられそうになったが、あわてて逃げた。
無腸公子(むちょうこうし)
カニの僧。
講演の合間に自分の子どもを食べる。
悟浄はそのような本能的なふるまいを見て「俺に足りないのはああいうところだよな」と納得して立ち去った。
蒲衣子(ほいし)
弟子とともに、自然の美しさを愛し、静かで幸福な生活を送っていた。
斑衣けつ婆(はんいけつば。「けつ」は「魚」に「厥」という漢字)
500歳を超えているが、肌がきれいで美しい女の妖怪。
イケメンを数十人集めて、家にこもって遊んでいる。そのため3ヶ月に一度しか外に顔を出さない。
悟浄はイケメンではなかったので、留まってくださいとは言われなかった。
「徳とはね、楽しむことの出来る能力のことですよ」と助言を聞いた後、悟浄はまた旅に出た。
その他の賢者
悟浄の「『我』とは?」の質問に対して答えてくれた人々。
その1「まず咆えてみろ。ブウと鳴くならお前は豚だ」
その2「自分の眼で自分は見れない。『我』は自分にはわからないものだ」
その3「我はいつだって我だ」
その4「我とは、記憶の影の堆積だよ」
女う先生(じょうせんせい。「う」は「にんべん」に「禹」という漢字)
悟浄が最後に出会った賢人。
「考えないでいることも、そんなに不幸じゃないよ」と教えてくれたことで、悟浄は吹っ切れることができた。
ラスト
悟浄は光をまとった仏教の聖人と会話をする。
「こんど中国から玄奘(三蔵法師)が来るので、それについて旅をするように」と言われて物語は幕を閉じる。
感想
細田守『バケモノの子』で文章が引用されていたので、読みました。
(『バケモノの子』と共通するところがあるのかな?)と思いながら読んでいったのですが、あまり似ていませんした。
悟浄が悩みを解決するためにねばり強く旅を続けるのは、一生懸命ですごいな、と思いました。
『バケモノの子』との共通点と相違点
【共通点】
・何かの動物の姿をモデルにしているバケモノが出てくる
【相違点】
・バケモノが人間より下に見られている
・文字は人間界から伝わったことになっている
『バケモノの子』に引用されている箇所
<生きておる智慧が、そんな文字などという死物で書留められる訳がない。(絵になら、まだしも画けようが。)>(118頁)
このように『悟浄出世』では、悟浄がいつも憂鬱な気分なのは、文字を大事にしているからだと考えられていた。
https://bookloid.com/boy-and-beast/
おわりに
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