目次
あらすじ
源氏と平家は海ぞいで向かい合っていた。
平家は船の上に扇を的として立て、「当ててみろ」と挑発する。
源氏は弓の名手・那須与一(なすのよいち)を指名した。
与一は見事に扇を射ち落とす。敵からも味方からも、彼をたたえる声があがった。
平家物語
扇の的と平家物語
『扇の的』は源氏と平氏の戦いを描いた物語『平家物語』の一部です。
『平家物語』は琵琶法師(びわほうし)と呼ばれる人たちによって、鎌倉時代から語り継がれてきました。
『平家物語』の冒頭の文章は有名で、わりと試験に出ます。
冒頭の文章
祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声(かねのこえ)、諸行無常(しょぎょうむじょう)の響きあり。
沙羅双樹(さらそうじゅ)の花の色、盛者必衰(せいじゃひっすい)の理(ことわり)をあらはす。
おごれる人も久しからず。
ただ春の夜の夢(はるのよのゆめ)のごとし。
たけき者も遂(つい)にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵(かぜのまえのちり)に同じ。
テスト前には暗記しておくことを強くおすすめします。
那須与一
『扇の的』の主人公。
源氏サイドの弓の達人。
弓を射る前に神などにめっちゃ祈る。
マンガ『ドリフターズ』ではメイン・キャラクターのひとり。
場所
『扇の的』が繰り広げられたのは、現在の高松市(香川県)にあたるところです。
昔は隠岐国屋島と呼ばれていた場所だそうです。
テストに出るよみがな(読み方)
- 酉の刻→とりのこく
- をりふし→おりふし
- 揺りすゑ漂へば→ゆりすえただよえば
- いづれも→いずれも
- 人に二度面を向かふべからず→ひとににどおもてをむこうべからず
- この矢はづさせたまふな→このやはずさせたもうな
- かぶらを取つてつがひ、よつぴいてひやうど放つ→かぶらをとってつがい、よっぴいてひょうどはなつ
わかりやすい現代語訳
試験勉強をされている方向けに、『扇の的』をわかりやすく現代語訳してみました。
ぜひお役立て下さい。
2月18日の午後6時ころのこと。
北からの風が激しく吹いて、岸にうちつける波も高かった。
舟はとてもゆらゆら揺れていたので、竿の先に取りつけられた扇も揺れている。
沖では平家が、舟を海一面に並べて見物している。
陸側では源氏が、馬に乗り並んで与一を見ていた。
どちらも晴れがましい姿であった。
与一は目をつぶった。
「南無八幡大菩薩さま、私の故郷の神さまがた、日光の権現さま、宇都宮大明神さま、那須の湯泉大明神さま、お願いします。どうかあの扇の真ん中を射抜かせてください。
この矢を外したら、(責任を取るために)弓を折って自ら命を絶たなければなりません。二度と誰かに会うこともできなくなります。
私をもう一度本国へ迎えてくださるお気持ちならば、どうかこの矢を外させないでください」
と、心で祈り念じて目を開いたところ、風もちょっと弱くなっていて、扇も射易くなっていた。
与一はかぶら矢を手に取り構え、引いてひょっ、と放つ。
与一の身体は小さかったが、矢は十二束三伏(とよばれるすごい矢)で、弓も強力なものだった。
矢の飛ぶ音は浦一帯に長く響いた。
狂いもなく、扇の「要」の部分から一寸(ちょっと)のところをひぃふっ、と射抜いた。
かぶら矢は海に入り、扇は空へ舞い上がった。
しばらくひらひらしていたが、春の風に一度か二度もまれ、そして海へさっ、と散っていった。
夕日がきれいなときに、真っ赤な日の丸が描かれた扇が白い波で浮かんだり沈んだりしている。
沖の平家は、舟のへり(側面)をたたいて感動を表していた。
陸の源氏はえびら(腰につけた武具)をたたいてどよめいていた。
あまりに面白く、感激したのだろうか、舟の中から、50歳くらいの男が出てきた。
黒い革の鎧を着て、白い柄の長刀を持っている。
彼は扇の立ててあったところに行き、そこで踊りはじめた。
伊勢三郎義盛という人が与一の近くに来て「命令だ、射よ」と言った。
与一は中差(という矢)をとり引いて、男の首の骨をひゃふ、っと射抜いた。
男は舟底にまっさかさまに落ちた。
平家の方は、何も言えず静まり返った。
源氏の方は、再度えびらをたたいて盛り上がった。
「あぁ、よく射たものだなぁ」と言う人もいれば「思いやりがない……」と言う人もいた。
問題と解答
テストでよく問われるところをまとめてみました。
試験前日にざっと見てみてください。
Q.「酉の刻」は今時間で言うと何時ごろか?
A.18時(午後6時)ころ
Q.平家と源氏、それぞれのいる場所はどこか?
A.平家:沖に並べた舟の上
源氏:陸に並べた馬の上
Q.扇を射抜こうとしているのは誰か?
A.那須与一
Q.那須与一は扇を射抜くことができなかったらどうなると思っているか?
A.弓を折って自殺しなければならないと思っている。
Q.扇を射抜いたとき、平家と源氏のそれぞれの反応は?
A.平家:舟のへり(側面)をたたいて感動した
源氏:えびらをたたいてどよめいた
Q.扇を射抜いたとき、平家と源氏のそれぞれの反応は?
A.平家:舟のへり(側面)をたたいて感動した
源氏:えびらをたたいてどよめいた
Q.男を射抜いたとき、平家と源氏のそれぞれの反応は?
A.平家:静まりかえった
源氏:えびらをたたいてどよめいた
感想
この記事を書こうと思ったのは、平野耕太のマンガ『ドリフターズ』を読んで「那須与一」という人物が出てきて、気になったからです。
オリジナルが『扇の的』のおはなしだったのですね。
ちなみに与一から扇までの距離は70メートルくらいだったそうです。めっちゃ遠い。
ダジャレですが、与一が弓を構える前、神仏に祈るときに「那須の湯泉大明神」を含めたのは「那須」つながりだからでしょう。
少しでも自分を助けてくれそうな神さま全員にお願いしたかったのかな。
このことは『扇の的』の状況が、それほど緊張する場面だったことを表しています。
どんな達人でも大一番は緊張するものなのですね。