目次
あらすじ
あなたが世界でいちばんすきな場所はどこですか? 私は台所です。
みかげは祖母を亡くし、雄一宅で「奇妙な同居」を始めることとなった。
世界には、耐え切れないほどの悲しさや苦しさや別れがある。
『キッチン』から私たちが学ぶことができるのは「つらいこと」を乗り越えるための「勇気」や「優しさ」、「誰かとの繋がり」は地球上のどこでも見出すことができるということ。
孤独の美しさ、人のぬくもりの心強さをやさしく感じられるベストセラー。
吉本ばななの原点にして頂点。
メッセージ
□吉本ばなな
「キッチン」は私の原点です。
いろいろな小説を書いてきましたけれど、迷った時はいつもここに戻っていって力をもらっている気がします。
とても大切な小説です。
□木村文乃
ただ生きている。
それだけの事を、こんなにも褒めてくれるのは、この物語だけだと思う。
□綿矢りさ
あんなに澄んだ小説は、あとにも先にも出会ったことがない。
出てくる人みんな、一生懸命生きていて、こちらまで照らされる。
□糸井重里
吉本ばななは、皮膚やかたちではなく、はじめから人のこころを見ているような気がする。
読書感想文(1200字、原稿用紙3枚)
<神様、どうか生きていけますように>
これは、吉本ばなな『キッチン』に登場する「みかげ」の言葉です。
人間は「選ぶ」ことができない生き物です。
負けたくないと思っていても、虫ケラのように負け続ける日々が避けられなかったり。
愛する人とずっと永遠にいたいと願っていても、いつか彼らも死んでゆく。
人間は多くのことを選ぶことができません。
生まれてから人間に起きるたいていのことは受動的に降りかかってくることばかりで、最初から最後まで自分自身が主体的に選び続ける人生を歩むことのできる人は、世界中どこを探してもおりません。
でも、それでも、それでも人は生きていかなければなりません。ごはんをつくってたべて、夜はねむらなければなりません。ていねいに日々を繰り返していかねばなりません。
もしそれをやらなかったら、私たちの大切な何かはだんだん損なわれ、そしてそれが積み重なった後には、とりかえしのつかないことになると私は思います。
「愛すら全てを救ってはくれない」からこそ、(かけがえのない)毎日をていねいに生きていかなければなりません。
冷房の効いた部屋でジャンク・フードを食べ、コカ・コーラを飲み、甲子園野球を横目で見ながら寝転がってゲームばかりしてばかりではいけないと思うのです(『キッチン』の登場人物たちはとてもやさしいので、みかげちゃんも、雄一くんも、えり子さんも、みんな「それでいいのだよ」と言ってくれるかもしれませんけど)。
ていねいに生きていれば、たとえ辛いことや悲しいことがあったとしても「うんうん」と納得していくことができます。みかげが夜の海を眺めながら納得していたように。
<まあね、でも人生は本当にいっぺん絶望しないと、そこで本当に捨てらんないのは自分のどこなのかをわかんないと、本当に楽しいことがなにかわかんないうちに大っきくなっちゃうと思うの。あたしは、よかったわ。>
『キッチン』には、人生をたいせつに生きていくための、ときに訪れる絶望にすら光を見出すための、侏儒のことばがたくさん埋蔵されています。
<でも、台所があり、植物がいて、同じ屋根の下には人がいて、静かで……ベストだった。ここは、ベストだ。>
『キッチン』は静かな物語です。
でも、読んでいると手指が、背筋が、脳みそが、心臓が、こころがざわざわする物語です。
中坊のときに読んでおくことで、その後の人生をきちんと生きていけるような小説。
それが厨房すなわち「キッチン」と吉本ばなながタイトルした由縁であると私は思いました。
(1059字、原稿用紙2枚と19行)
おわりに
そのほかの「読書感想文」はこちらから。