『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』感想|端と端を結んだ輪

※引用はすべて七月隆文『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』宝島社文庫による

あらすじ

 京都の美大に通う「僕」は、4月ある日一目ぼれした女の子。
 高嶺の花に見えた彼女に意を決して声をかけ、交際にこじつけたが……。彼女には秘密があった。
 奇跡の運命で結ばれた二人を描く、甘くせつない恋愛小説。

作者:七月隆文
カバーイラスト:カスヤナガト
本文イラスト:七月隆文

 

登場人物

南山高寿(みなみやまたかとし)

 「ぼく」。木野美術大学・マンガ学科。
 <大学二年にして、中二病。>
 (39頁)
 デートでスタバをよく利用する。

 

福寿愛美(ふくじゅえみ)

 「きみ」。美容師の専門学校に通う。
 <全体の印象をひと言で表すなら、癒し>
 (24頁)

 

上山正一(うえやましょういち)

 南山の親友。幼稚園に入る前からの付き合い。
 身長194㎝。レストラン「くわらんか」でアルバイトをしている。

 

【ネタバレ】タイトルの意味

 「君」である福寿愛美は「僕」とは違う世界の住人。
 「僕」の世界とは反対に時間が流れる。
 「僕」にとっての明日は、彼女にとっての昨日となる。
 「僕」は明日「昨日の君」とデートするが、「君」は明日「昨日の僕」とデートをすることになる。
 彼女の世界には「5年に一度、40日間しか隣の世界に行けない」というルールがあるため、二人は毎日デートをし、残された時間を大切に過ごす。

 

【ネタバレ】ストーリーを振り返る

プロローグ

書き出し
<一目惚れをした。
いつもの大学までの電車の中で、ぼくは唐突に恋をしてしまった。>
(5頁)

 

<「メ、メアド教えてくださいっ」>
(13頁)
<「携帯電話、持ってないんです」>
(14頁)

 断られたと思いきや、本当に携帯電話を持っていないとわかる。
 そして「僕」は、宝ヶ池に向かうという彼女に付いていくことになりました。
 ナンパ成功。

 

第一章 きみ

<「また会える?」>
(29頁)

 と別れぎわに質問したとたん、彼女は泣き出し、「僕」に抱きついてくる。
 「ちょっとね……かなしいことが……あってねっ」と言い訳する。
 これは伏線でした。
 彼女にとってこの日は、高寿と会うことのできる最後の日だったからです。

 

<出会いは突然で、昨日と今日で自分ががらりと変わってしまう。そういうものなんだと。>
(37頁)
<「あっ、教室に張り出されるやつだ」>
(43頁)

 彼女は「僕」の描いたキリンの絵が教室に張り出されることを知っていました。
 このことからも、彼女が「僕」の未来(彼女にとっての昨日)を知っていることがわかります。

 

<きみはどうしてそんなに完璧であろうとするんだろう。>
(68頁)

 自分たちの「歴史」をなぞるように行動しているので、「僕」にはこんな風に見えます
 デートは扇子屋さん、ピザ屋さん、スパイアクション映画、『ガラスの仮面』を読む……など。最後に告白をしました。

 

<「ぼくと付き合ってください」
 「はい」>
(90~91頁)

 

間奏

 「僕」が5歳のとき震災にあうが、おばさんに助けられる。
 そのおばさんが現れ、彼に茶色い箱を渡す。
 これが第二章のキー・アイテムになります。

 

第二章 箱

 にやにやする「僕」。
 上山に見せるために、二人の写真を携帯電話のカメラで撮る。

 

<付き合いはじめてから、ぼくたちはほとんど毎日会っていた。>
(117頁)

 「僕」は一人暮らしを始める(ちょっと唐突?)。

 

<「わたしに予知能力があったら、高寿くんはどうする?」>
(138頁)

 愛美も唐突にこんなことを言い出す。
 このあたりでタイトルの意味がわかりかけてきます。
 また、153~156頁に挿入された、愛美の直筆の手紙がかわいい。

 

 「僕」は自分の部屋に残された彼女のメモ帳を発見する(172頁)。
 そこには5月20日から5月23日の行動が書いてありました。
 ちなみにそのメモを見たのは4月28日。
 「僕」は違和感を感じます。

 

<『メモ帳はもう見たよね?』>
(173頁)
<『隠してたこと、ぜんぶ話すね』>
(174頁)
<「わたしは、この世界の隣の世界の住人で、そこから来ているの」>
(177頁)
<「明日、二十九日朝六時に、あなたの大学の教室で待ってる」>
(180頁)
<「あなたが十年前に預かったあの箱を持ってきて。マンガと同じ段ボールに入れていた、あの箱だよ」>(180頁)

 そして愛美は「真実」を語ります。

 

<「この高寿のいる世界と、わたしのいる世界は、時間の進む方向が逆なの。わたしの明日は、あなたにとっての昨日。わたしにとっての十年後は、あなたにとっての十年前」>
(187頁)

 これが、愛美が「僕」の未来を知っていた理由です。
 持ってくるよう言われた箱の中身は、現在から1ヶ月先の日付の写真でした(箱を受け取ったのは10年前)。
 愛美の語ったことを「僕」は信じるしかありませんでした。

 

<「震災の時あなたを助けたのは、わたしだよ」>
(192頁)

 ちなみに5歳の愛美は30歳の高寿に命を助けられているという。
 お祭りのさい、爆発した屋台から手を引いて。
 そのとき愛美は「一目惚れ」したと述べました。

 

<「五歳のわたしは、あなたを見ながら『この人だ』って感じたの。理由はわからないけど、はっとなって、全身で感じたんだよ」>
(195頁)

 この感覚は「僕」が彼女に「一目惚れ」したときと類似しています。

 

<「僕はきみに命を救われて」
 「わたしはあなたに命を救われて」
 彼女が継ぐ。
 「それがあって、わたしたちは今、こうして会えてるの。逆向きに進んだ時間の端と端で命を救い会って、どっちが先とも後ともわからない因果があって……そういう特別な縁で、お互いが二十歳になった今、こうして向き合っているんだよ」
 …………。
 お互いの過去と、現在と、未来で深く結びついている。それは。そういうぼくたちというのは――
 「運命」
 「だね」>
(196頁)

 愛美の世界の人間は、5年に一度しか高寿の世界に来られません。
 5年に一度、40日間しか滞在できません。
 それが5月23日から4月13日の期間ということでした。

 

第三章 ぼくは明日、昨日の君とデートする

<「ぼくが昨日一緒に過ごした愛美を、今のきみは知らない。昨日だけじゃなく、今まで一緒に過ごしてきた思い出全部を、きみは知らない。一度そのことがわかってしまうと、どんどんそのことが見えてきて……きみが気づかせまいと努力してる瞬間もわかってしまって……きみの言ってること、やってることぜんぶ……。……きついんだよ。きみと会ってるのにきみじゃないような、すごくきつい感じになるんだよ」>
(214頁)

 今まで愛美が泣いていたときというのが「最後の瞬間」だったとわかりました。
 手を繋いだり、何気ないことを言っただけなのに泣いていたのはそういうわけでした。

 

終章(結末)

<「……ここがピークなんだね。わたし、これから少しずつあなたの過去に戻っていって、あなたと恋人じゃなくなっていくんだね。……すれ違ってくんだね」
 「すれ違ってなんかいない」
 ぼくは約束を果たす。
 「ぼくたちはすれ違ってない。端と端を結んだ輪になって、ひとつにつながってるんだ」>
(277頁)

 

エピローグ

 愛美が「となりのせかい」に家族旅行をし、高寿に助けられました。
 視点が変わり、「僕」と出会う前の愛美へ。
 ここで物語は冒頭へつながりました。

 

読書感想文 原稿用紙3枚(1200字,60行)

KKc
「運命を受け入れる」

 

 『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』を読む前は、これをタイムスリップする小説だと思っていました。
 時間をさかのぼる能力を身につけた主人公が、翌日にそれを使い、前日に戻る。そしてうまくいかなかったデートをやり直す……のような話を私は想像していました。
 違いました。

 

 『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』において「ぼく」と「きみ」の時間の流れは反対であり、「ぼく」は明日、昨日の「きみ」と会うことになる一方で「きみ」は明日、昨日の「ぼく」と会うことになります。
 文章にするとなんだかぐるぐるしてきます。

 

 さて、ここで注意しておかねばならないのは、彼らが会うことのできる期間が4月13日から5月23日の40日間だけであるということと、「ぼく」は4月23日以降しか、「きみ」の秘密を知らないのに対し、「きみ」は最初から、自分たちの時間の流れが反対であることを知っているということです。

 

 二人でいられる時間が40日間だけしかない(恋人といる時間はあっという間に過ぎる)ということは、物語に「潤い」を与えます。
 限られた時間が無いからこそ、私たちは『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』に感動することができます。涙という「潤い」です。

 

 また、二人の時間の秘密を共有する前と後では、「ぼく」と「きみ」の関係が変わっているのも、この小説のよいところです。
 ストーリーが進むにつれて「ぼく」は過去の「ぼく」をよろしく、と言うようになるし、「きみ」に対して少し年上っぽさを感じたりもしています。

 

 ちなみに頭からもう一度『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』を読み返すと、逆に、最初のほうの「きみ」が少し大人びて見えるのもおもしろいところです。

 

 話を変えて、私が(ちょっとどうだろう?)と思ったのは、「ぼく」が二人の時間の流れの秘密を知ったあとで、特に何も行動を起こさなかったことです。

 

 「ぼく」は必死に行動し、突破口をみつけて、なんとか世界のルールを変えて、「きみ」と同じ時間を生きようとする……みたいな展開になるといいな、と思っていたので、最後の夜まで二人がただデートを繰り返していただけだったことに、ちょっとがっかりしました。

 

 でも、この小説はたぶん私が理想とするようなガチガチのSFではなくて、SF風味の恋愛小説を目指して執筆されたものでしょう。だから、これはこれでよいのだと自分に言い聞かせました。「ぼく」と同じように私も運命を受け入れたともいえます。

(60行,原稿用紙3枚ぴったり)

 

おわりに(映画化について)

 映画化しやすいストーリーだと思いました。
 結末に到るまでの恋が甘酸っぱく、またその結末も、涙するものでした。感動できる小説って、よいですね。
 それに何より、もう一度はじめから読みたくなる構成ということも、映画にしやすいところだと思います。

 

KKc
最後までお読みいただきありがとうございました。

 

「おすすめ小説リスト」はこちらから。

記事に対する感想・要望等ありましたら、コメント欄かTwitterまで。

読書感想文の書き方についての本を出版しました。おすすめです。