目次
あらすじ
ブラック企業入社1年目の隆は、心身ともに追い詰められ、疲れからか不幸にも無意識に線路に飛び込もうとしてしまう。
そこへ昔の同級生・ヤマモトだと名乗る男が現れる。
人生における働くことの意味を考える一冊。
感想
誰もが抱いている欲望が顕現したようなタイトルに、思わず手にとってしまった人も多いのでは。
隆が無意識に線路に向かって歩いてしまったように。
ただ本書は線路のように危険な場所ではない。
むしろ、私たちをあたたかく包んでくれるような小説である。
さて。
人生は自分のためだけにあるのではない。半分は自分のため、もう半分は自分以外の人のため……であると『ちょっと今から仕事やめてくる』を読んで考えた。
そう考えると、苦しいと思っていたことが苦しくなくなると思う。
人間は、自分のために生きるよりも、他人のために生きるほうが楽である。私はそう思う。
<人間は「フェアネス」の実現と、「信頼」に対する応答のために働くときにその能力の限界を超える。 阪神の金本選手は契約更改のときに、「自分の俸給を削っても、スタッフの給与を増額して欲しい」と述べた。これを「持てるものの余裕」と解釈した人もいるだろう。(……)彼の活躍を「わがこと」のように喜んでくれる人間の数をひとりでも増やすことが彼自身のモチベーションの維持に死活的に重要であることを知っているからこそ、彼は「フェアネス」を優先的に配慮したのである。 ベネフィットを分かち合うことによって、ベネフィットの継続的なシステムを基礎づけること。これは人類学的な「常識」に属する。>
(72頁,内田樹『ひとりでは生きられないのも芸のうち』文春文庫)
イーグルスの則本選手は契約更改のときに、「ビジター側の選手控え室にも、風呂を設置して欲しい」と述べた。
おそらく金本選手と則本選手の発言の意図は同じだろうと思う。
対戦相手のコンディションは、単純に相手を打ち負かす目的のためには、できるだけ悪いほうが望ましい。
しかし彼はその正反対のことをした。
試合を行う他チームの体調を良くすることが、自身のモチベーションを高く維持することにつながることを、則本選手は知っていたのである。
自分が高いパフォーマンスを発揮しながら働くことを望むのはもちろんだが、そのために「職場」全体が高いレベルにあることを至高すること。
自分のためだけに球場の状態を考えるのではなく、他選手のためになるよう球場のことを考えること。
これは、彼がただよいプレーをすることから得られるベネフィットよりも大きいベネフィットを得られる手段であると私は思う。
そしてそれは、ベネフィットを継続的に得るための方法でもある。
おわりに
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