※引用はすべてD・カーネギー『人を動かす 新装版 (Japanese Edition) 』(Kindle版)による
目次
はじめに
D・カーネギー『人を動かす 新装版 (Japanese Edition) 』はPART1~PART4と付からなっています。
PART1 人を動かす三原則
PART2 人に好かれる六原則
PART3 人を説得する十二原則
PART4 人を変える九原則
付 幸福な家庭をつくる七原則
どの原則もたとえ話が豊富に盛り込まれていて、自己啓発本としてだけではなく、読み物としても面白い一冊です。
ちなみに原題は”How to win friends and influence people”
本記事では内容を要約したり名言を引用したりしながら、感想を添えていきたいと思います。
PART1 人を動かす三原則
1.盗人にも五分の理を認める(批判も避難もしない。苦情も言わない。)
<「自分の身を守っただけのことで、こんな目にあわされるんだ」
これが、クローレーの最後の言葉であった。
この話の要点は、凶悪無類のクローレーでさえ、自分が悪いとは全然思っていなかったということだ。>
at location 88
<カポネほどの極悪人でも、自分では、悪人だと思っていなかった。>
at location 94
悪い人のうちで(オレは悪いやつだ)と自覚している人は少ない。
自分の行動を客観的に見つめることは難しい。
悪いことをしている人を善い方向に動かしたいと思うなら、「お前は悪いことをしている。だから行動を改めろ」と言ってはいけない。
非難で人を動かすことはできない。
<もし他人を非難したくなったら、アル・カポネやクローレーやフォールの話を思い出していただきたい。人を非難するのは、ちょうど天に向かってつばをするようなもので、必ず我が身に返ってくる。人の過ちを正したり、人をやっつけたりすると、結局、相手は逆にこちらを恨んで、タフトのように、「ああする以外に、方法はなかった」と言うくらいが関の山だ。>
at location 161
タフトはアメリカの大統領。セオドア・ルーズヴェルトの後任を務めたが、のちに二人は仲たがいし、政党は分裂。次の選挙で退廃を喫した。
ルーズヴェルトはタフトを責めた。しかしタフトは「ああする以外に、方法はなかった」と繰り返すばかりで、自分が悪いと認めることはなかった。
大統領になるほどの人物であっても、自己の過ちを認めることは難しい。
他人に「オレが悪かったよ」と言わせる(思わせる)ことは至難の業だ。
<「人を裁くな──人の裁きを受けるのが嫌なら」
というのが、彼の好んだ座右銘であった。
リンカーンは、妻や側近の者が、南部の人たちをののしると、こう答えた── 「あまり悪く言うのはよしなさい。我々だって、立場を変えれば、きっと南部の人たちのようになるんだから」>
at location 194
『人を動かす』の著者、D・カーネギーは、リンカーンを10年研究、3年かかって『知られざるリンカーン』という本を書いた。それだけに彼のリンカーンに対する造詣は深い。
リンカーンは南北戦争を戦った大統領である。戦況が悪くなると無能な将軍を次々と取り替えたが、彼は決して感情的に彼らを非難することはなかった。引用した座右の銘を支えにして、心の平静を保ち続けた。
リンカーンは愛を持って人に接したのである。
誰かを傷つけると、その人は絶対に自分のために動いてはくれない。
2.重要感を持たせる(率直で、誠実な評価を与える。)
<自己の重要感に対する欲求は、人間を動物から区別している主たる人間の特性である。>
at location 361
フロイトはこれを「偉くなりたい願望」と言い、デューイは「重要人物たらんとする欲求」と言った。
人間は「誰かに認められたい」という気持ちを持つという点において、他の動物から分離した。
<お世辞と感嘆の言葉とは、どう違うか? 答えは、簡単である。後者は真実であり、前者は真実でない。後者は心から出るが、前者は口から出る。後者は没我的で、前者は利己的である。後者は誰からも喜ばれ、前者は誰からも嫌われる。>
at location 499
カーネギーはお世辞は利益ではなくむしろ害をもたらすものだ、と警句を発している。
しかし人生において、時にはお世辞を言わねばならない場面も出てくる。
そんなとき、私たちはどうすればよいのだろうか。
お世辞を感嘆の言葉に変えるのは、真心である。
真心を込めて、本心から相手のことをすごいと思い込む。自分に暗示をかけるような気持ちで言う。
そうすることで、お世辞はお世辞ではなくなり、相手を称賛する言葉となる。
3.人の立場に身を置く(強い欲求を起こさせる。)
<自分の息子に煙草を吸わせたくないと思えば、説教はいけない。自分の希望を述べることもいけない。煙草を吸う者は野球の選手になりたくてもなれず、百メートル競走に勝ちたくても勝てないということを説明してやるのだ。>
at location 556
<明日の晩は、諸君、ぜひ来てくれたまえ。僕は、バスケットボールがやりたくて仕方がないんだ」
彼は、相手がやりたくなるようなことは、何も言わなかったわけだ。誰も行かないような体育館には、誰だって行きたくないに決まっている。彼がいくらやりたくても、そんなことは、こちらの知ったことではない。それにわざわざ出かけていって、ボールを当てられてひどい目にあうのは、まっぴらだ。
もっと他に言いようもあったはずだ。バスケットボールをやればどういう利益があるか、それをなぜ言わなかったのだろう。元気が出るとか、食欲が旺盛になるとか、頭がすっきりするとか、とても面白いとか、利益はいくらでもあるはずだ。>
at location 746
私たちが望むこと、望むものは、必ずしも他人も望むとは限らない。
往々にして、私たちの希望は誰かの希望ではない。
タバコをやめさせたいときに「タバコなんて不良の吸うものだ」という説教をしてはならない。「私はあなたにタバコを吸ってほしくない」というのも、あまり効果はないだろう(恋人同士だったらあるいは……?)。
そうではなくて、引用した箇所のように、タバコを吸うことで被るデメリットや、失うメリットを述べたほうがよい。
誰かをバスケットボールに誘うときも同様である。
誰もがあなたに奉仕することを喜んでするわけではない。あなたが石油王でもない限り。そういう意味で、『人を動かす』は石油王に資するところは少ないかもしれない。
PART2 人に好かれる六原則
1.誠実な関心を寄せる
<何の働きもせずに生きていける動物は、犬だけだ。鶏は卵を産み、牛は乳を出し、カナリヤは歌を歌わねばならないが、犬はただ愛情を人に捧げるだけで生きていける。>
at location 813
<ティピーは心理学の本を読んだことがなく、また、その必要もなかった。相手の関心を引こうとするよりも、相手に純粋な関心を寄せるほうが、はるかに多くの知己が得られるということを、ティピーは不思議な本能から知っていたのである。繰り返して言うが、友を得るには、相手の関心を引こうとするよりも、相手に純粋な関心を寄せることだ。>
at location 820
「ティピー」は子犬である。
私たちは、自分に関心を寄せてくれる犬に対して好感を持つ。「犬」を「人間」に変えても同様である。
誰かと親密になりたいと願うのならば、「どうやったらその人が私を魅力的だと認識するか」に腐心するのではなく「相手に夢中になること」を心がけたほうがいい。
犬は、飼い主に自分をよく見せようと取り繕うことはない。ただ飼い主に対して尻尾を振るのみである。たったそれだけのことで、犬は満腔の愛情を得ることに成功するのだ。
<サーストンは、舞台に立つ時、必ず心の中で「私は、お客さまを愛している」と何度も繰り返し唱えるという。読者は、この話を、馬鹿馬鹿しいと思おうが、滑稽と思おうが、ご自由である。私は、ただ、世界一の奇術師が用いている秘法を、ありのままに公開したにすぎない。>
at location 865
この世界一の奇術師のテクニックを、私たちは今からでも真似することができる。
ただ「私はお客様を愛している」と心の中で唱和するだけ。特別な道具や手段は必要ない。
私はこれを、馬鹿馬鹿しい手段だとは思わない。
<長年、私は、友達からその誕生日を聞き出すように心がけてきている。もともと私は占星術などまるで信じない男だが、人間の生年月日と性格、気質には何らかの関係があると思うかどうか、相手にまず聞いてみることにしている。>
at location 933
私は「血液型占い」を信じていないけれど、この文章を読んで、初対面の人に血液型を質問してみるのも悪くないな、と思った。
同じく「信じていない」と言う人ならば意気投合できるし、「信じている」と答える人ならば、私と違う視点から物事を考える人だということなので、その人は私にとってたいへん興味深い人間となるからである。
2.笑顔を忘れない
<笑顔は好意のメッセンジャーだ。受け取る人々の生活を明るくする。しかめっ面、ふくれっ面、それに、わざと顔をそむけるような人々の中で、あなたの笑顔は雲の間から現われた太陽のように見えるものだ。>
at location 1136
「目は口ほどに物を言う」ということわざがあるように、顔、特に表情から受ける印象は強烈である。
笑顔の力は大きい。
某ファストフードチェーンが笑顔を接客における第一重要事項として扱っていることも、これを踏まえているのかもしれない。
3.名前を覚える(名前は、当人にとって、最も快い、最も大切な響きを持つ言葉であることを忘れない。)
<たいていの人は、他人の名前をあまりよく覚えないものだ。忙しくて、覚えるひまがないというのが、その理由である。
いくら忙しくても、フランクリン・ルーズヴェルトよりも忙しい人はいないはずだ。そのルーズヴェルトが、たまたま出会った一介の機械工の名を覚えるために、時間を割いている。>
at location 1244
人は、自分の名前を覚えてくれていると感じれば、なかなか責任者に反抗心を抱かないものである。ルーズヴェルトはそういった人間の性質をよく心得ていた。
4.聞き手にまわる
<彼女は、たっぷり四十五分間、アフリカの話を聞かせてくれた。私の旅行談を聞かせてくれとは、二度と言わなかった。彼女が望んでいたのは、自分の話に耳を傾けてくれ、自我を満足させてくれる熱心な聞き手だったのである。
彼女は変わり者なのだろうか?
いや、そうではない。ごく普通なのである。>
at location 1301
話を聞いてもらうことは気持ちがいい。だから、話題がないとき、話す材料を持っていないときは、聞き手にまわる方がよい。
一心になって聞き、心から相手の話に夢中になり、惜しみない賛辞を贈れば、相手はきっとあなたのことを素晴らしい人間だと思ってくれるはずである。
<人に嫌われたり、陰で笑われたり、軽蔑されたりしたかったら、次の条項を守るに限る──
一、相手の話を、決して長くは聞かない。
一、終始自分のことだけをしゃべる。
一、相手が話している間に、何か意見があれば、すぐに相手の話をさえぎる。
一、相手はこちらよりも頭の回転が鈍い。そんな人間の下らないおしゃべりをいつまでも聞いている必要はない。話の途中で遠慮なく口をはさむ。
世間には、この条項を厳守している人が実在するのを読者は知っているはずだ。私も、不幸にして知っている。>
at location 1443
「自分が世の中でいちばん偉い」と思い込んでいる人間は、しばしばこのような間違いを犯す。そして平気な顔をしている。手柄顔をしているときすらある。
話し上手になる秘訣は、聞き上手になることだ。そのためには、相手を喜ばせることを考えなければならない。相手が喜ぶような質問を投げかねたり、相手の話に絶妙な相づちをうつことを心がける。
人と話すときは、このことを忘れずにいたい。
5.関心のありかを見抜く(相手の関心を見抜いて話題にする。)
人と会う予定があるときは、その人が好む話題について調べておく。
相手が深い関心を寄せることについて話すことは、人の心をとらえる近道だ。
6.心からほめる(重要感を与える――誠意を込めて。)
<たとえば、レストランで、給仕が注文を間違えて持ってきた時、「面倒をかけて済みませんが、私はコーヒーよりも紅茶のほうがいいんです」と丁寧に言えば、給仕は快く取り替えてくれる。相手に敬意を示したからだ。こういう丁寧な思いやりのある言葉遣いは、単調な日常生活の歯車に差す潤滑油の働きをし、同時に、育ちのよさを証明する。>
at location 1594
まったくこの通りである。
自分が客だからといって、横柄な態度をとらなければならないという決まりは世界中のどこにもない。そのようなルールを私は寡聞にして知らない。
給仕とはいえ、相手も人間である。『人を動かす』に書かれた手法を適用することで、レストランでさらに愉快な時間を過ごすことができるはずだ。
PART3 人を説得する十二原則
1.議論を避ける(議論に勝つ唯一の方法として議論を避ける。)
<なぜあの男の間違いを証明しなきゃならんのだ。証明すれば相手に好かれるかね? 相手の面子のことも考えてやるべきだよ。>
at location 1764
<百パーセントこちらが正しいと思われる場合でも、小さいことなら譲ったほうがいい。細道で犬に出会ったら、権利を主張して嚙みつかれるよりも、犬に道を譲ったほうが賢明だ。たとえ犬を殺したとて、嚙まれた傷は治らない」>
at location 1834
議論はできるだけ避けたほうがよい。
誰かを説得したかったら、議論の末に考えを改めさせるのではなく、相手の意見を認めたうえで会話を進めるべきである。大事なのは議論に勝つことではなく、好意を得ることだ。好意を得ることができれば、自分の望む方向に相手を誘導することは難しくない。
<〝意見の不一致を歓迎せよ〟──「二人の人間がいて、いつも意見が一致するなら、そのうちの一人はいなくてもいい人間だ」>
at location 1837
これは『片々録』からの名言。
誰かと意見が合わなかったとしても、その人は私たちにとって歓迎すべき人である。
2.誤りを指摘しない(相手の意見に経緯を払い、誤りを指摘しない。)
<「できれば、人より賢くなりなさい。しかし、それを、人に知らせてはいけない」>
at location 1891
人を説得したければ、相手よりも賢くあらねばならない。そしてそのことは、決して悟られてはいけない。巧妙に隠しておかねばならない。
たとえ相手が間違っているときでも、それを正面から指摘するのではなくて、「私はそんな風には考えないのですが、どうでしょう。もう一度よく考えてみませんか」などと提案する。
「理解ある態度」をとることで、相手が自ら反省する気持ちを起こすように仕向けるのである。
3.誤りを認める(自分の誤りを直ちに快く認める。)
<自分が悪いと知ったら、相手にやっつけられる前に自分で自分をやっつけておいたほうが、はるかに愉快ではないか。他人の非難よりも自己批判のほうがよほど気が楽なはずだ。>
at location 2088
誰かと対立することになってしまったら、即座に潔く己を「間違いだ」と認めること。
そうすることで相手としては、何も言うことがなくなる。私たちのことを寛大に許そうという気持ちになる。
間違っていると思われる側が「私は間違っていない」と主張することは、双方間に存在する問題をさらにこじらせる効果しかない。
そうすることよりもむしろ自己批判をしてみせることで、問題は速やかにかつ穏やかに解決に向かうだろう。
4.穏やかに話す
腹が立ったとき、相手をこてんぱんにしてやりたいという気持ちが起こるのは当然である。
だが、それが成しとげられたとして、果たして相手は自分の思うとおりに動いてくれるだろうか?
人を説得するためには攻撃的・威圧的に話すのではなくて、穏やかに、情理を尽くして話すことが大切である。
5.”イエス”と答えられる問題を選ぶ(相手が即座に”イエス”と答える問題を選ぶ。)
<体の組織が、進んで物事を受け入れようとする体勢になる。それゆえ、はじめに〝イエス〟と多く言わせれば言わせるほど、相手をこちらの思うところへ引っ張っていくことが容易になる。>
at location 2327
考え方が違うような問題をなんとかしたいと思っているとき、それをはじめに取り上げてはならない。
はじめに取り上げるべきは、「イエス」と答えてくれるような、二人の意見が一致しているような話題である。たとえば「もうすっかり夏って感じですね」とか。
そのような話題を重ねていくことで、「自分たちは同じ方向を向いている」ということを確認させることができる。
「イエス」ばかりを言わせるようにして「ノー」とは言わせないようにする。
そうすることで、意見の擦りあわせが困難な問題でも、人を説得することができる。
6.しゃべらせる
<フランスの哲学者ラ・ロシュフコーの言葉に、こういうのがある── 「敵をつくりたければ、友に勝つがいい。味方をつくりたければ、友に勝たせるがいい」>
at location 2465
人は、自分のことを思う存分話すことを許可してくれる相手に好意を持つ。
その性質を利用し、相手が望むままに話してもらうのである。たとえば社長に「さぞかし苦労されて、今の会社をお作りになられたと聞いています」と質問するなど。
聞き手に回ることは、人を説得する上でとても効果が高い。
7.思いつかせる
<要するに、ルーズヴェルトのやり方は、相手に相談を持ちかけ、できるだけその意見を取り入れて、それが自分の発案だと相手に思わせて協力させるのだ。>
at location 2526
人は、誰かに押し付けられたアイデアよりも、自分が思いついたアイデアをやりたがる。たとえそれが相手に「思いつかされた」アイデアであっても。
だから人を説得する手段の一つとして「思いつかせる」ことがある。
「これって、どうすればいいかな?」と「相談」を持ちかけ、うまく相手を誘導する。そしてやりたいアイデアを、議論の末に、相手が思いついたように偽装する。
容易でないことだが、上手く利用できればこれ以上の説得法はない。
8.人の身になる
相手を理解しようとすること。
他人に物を頼もうとするときはまず、その人の立場に身を置いて考えてみる。
「どうしたら、あの人はこれをやってくれる気持ちになるだろうか」と想像してみる。
そのように考えることは、きっと交渉の助けになるだろう。
9.同情を寄せる(相手の考えや希望に対して同情を寄せる。)
人は誰でも、自分の境遇を誰かに知ってほしい気持ちを持っている。自分の傷口を、誰かに見てほしいと願っている。不幸な自分に対して憐憫を感じたい、感じてほしいと思っている。少なからず。
押し付けるだけではなく、同時に同情を寄せる。おどすなどよりも、よっぽどよい方法である。
10.美しい心情に呼びかける
<「相手の信用状態が不明な時は、彼を立派な紳士と見なし、そのつもりで取引を進めると間違いがないと、私は経験で知っている。要するに、人間は誰でも正直で、義務を果たしたいと思っているのだ。これに対する例外は、比較的少ない。人をごまかすような人間でも、相手に心から信頼され、正直で公正な人物として扱われると、なかなか不正なことはできないものなのだ」>
at location 2859
こちらが全幅の信頼を寄せていると感じると、人は悪いことをしようとは、なかなか思わない。
まずはじめにそのような態度をしてみることで、その後の相手の態度を決定することができる。
11.演出を考える
ドラマチックな演出をすることは説得をするうえで有効な手段である。
単に事実だけを並べるのではなく、どうやったらそれがよりよく相手に見えるのかを考えなければいけない。
相手の興味を惹くように演出すること。劇的な演出は人を動かす。
12.対抗意識を刺激する
人の持つ、相手に勝ちたいという欲求、競争の末に何かを掴み取りたいという渇望を刺激すること。
上手にライバルをあてがい、競争心を持つように仕組むことで、人に何倍もの仕事をさせることが可能である。
PART4 人を変える九原則
1.まずほめる
<まず相手をほめておくのは、歯科医がまず局部麻酔をするのによく似ている。もちろん、あとでがりがりとやられるが、麻酔はその痛みを消してくれる。>
at location 3080
なにか人に注意をするときは、直前にほめることだ。それが露骨なお世辞であっても、その後の悪印象を薄めてくれる。私たちはほめられた後では、苦言を苦言と感じにくくなる。
2.遠まわしに注意を与える
<失敗は〝しかし〟という言葉を、〝そして〟に変えると、すぐに成功に転じる。>
at location 3109
「しかし」を「そして」に変えるだけで、注意は遠まわしな注意に変わる。
「今回の成績はよかったね。”しかし”もっと数学をがんばれなければいけないよ」という注意を「今回の成績はよかったね。そしてもっと数学をがんばることで、次回はさらによい成績になるだろう」と言い換えるだけで、だいぶ遠まわしな表現になる。きっと勉強に前向きにとりくめるようになる。
ほめたあとは「しかし」ではなく「そして」で文章を繋げる。そうすることで、期待通りに相手が動いてくれるだろう。
3.自分の過ちを話す(まず自分の誤りを話したあと相手に注意する)
<人に小言を言う場合、謙虚な態度で、自分は決して完全ではなく、失敗も多いがと前置きして、それから間違いを注意してやると、相手はそれほど不愉快な思いをせずに済むものだ。>
at location 3151
4.命令をしない(命令をせず、意見を求める。)
命令を質問の形に変えるだけで、驚くほど受け入れられることがある。
「この書類、明日までによろしく」ではなく「この書類、明日までだったかな?」
「君の車を動かしてくれ」ではなく「今、車動かせる?」
命令をただ実行するのではなく、命令を作る段階に相手を巻き込むことができれば、人は気持ちよく動いてくれるだろう。
5.顔をつぶさない
<たとえ自分が正しく、相手が絶対に間違っていても、その顔をつぶすことは、相手の自尊心を傷つけるだけに終わる。あの伝説的人物、フランス航空界のパイオニアで作家のサンテグジュペリは、次のように書いている。 「相手の自己評価を傷つけ、自己嫌悪におちいらせるようなことを言ったり、したりする権利は私にはない。大切なことは、相手を私がどう評価するかではなくて、相手が自分自身をどう評価するかである。相手の人間としての尊厳を傷つけることは犯罪なのだ」>
at location 3292
相手の顔を立てる。言われずとも重要なことだ。でも、こういう大切なことは定期的に誰かがアナウンスしていくべきだと私は思う。
たとえ自分が100%正しく、自分の気持ちを通すことが正当である場合でも、相手の顔を立てることを忘れてはならない。
6.わずかなことでもほめる
<私はピートが犬に芸を仕込むのを見て、大変面白いと思った。犬が少しでもうまくやると、なでてやったり、肉を与えたりして、大げさにほめてやる。
このやり方は、決して新しくない。動物の訓練には、昔からこの手を用いている。
我々は、このわかりきった方法を、なぜ人間に応用しないのだろう?>
at location 3301
<この賞賛は、少年の将来を一変させ、英文学史上に不滅の功績を残させた。数え切れないほどのベストセラーを著し、百万ドル以上の富をペンから生み出したこの人は、H・G・ウェルズである。>
at location 3334
<批判によって人間の能力はしぼみ、励ましによって花開く。>
at location 3372
鞭の代わりに肉を。
批評の代わりに称賛を。
苦渋の代わりに蜜を。
犬だってベストセラー作家だってほめられたい。
ほめることは、人を堕落させない。
わずかなことでも惜しみなくほめよう。
大いなる進歩のための糧となる。
7.期待をかける
<要するに、相手をある点について矯正したいと思えば、その点について彼はすでに人よりも長じていると言ってやることだ。「徳はなくても、徳あるごとくふるまえ」とはシェイクスピアの言葉だ。相手に美点を発揮させたければ、彼がその美点を備えていることにして、公然とそのように扱ってやるがよい。良い評判を立ててやると、その人間はあなたの期待を裏切らないように努めるだろう。>
at location 3389
人は、自分についての好評がたてば、それに従うようにふるまう傾向がある。
わざと(そうでなくとも)良いレッテルを貼ることで、人をよい方向に誘導することが可能である。
期待を裏切るまいと努力することで、実際に期待に応えられるような人物になる。
8.激励する(激励して、能力に自信を持たせる。)
<子供や夫や従業員を、馬鹿だとか、能なしだとか、才能がないとか言ってののしるのは、向上心の芽を摘み取ってしまうことになる。その逆を行くのだ。大いに元気づけて、やりさえすれば容易にやれると思い込ませ、そして、相手の能力をこちらは信じているのだと知らせてやるのだ。そうすれば相手は、自分の優秀さを示そうと懸命に頑張る。>
at location 3461
けなすよりも激励を。
長所を見つけほめる。相手は元気がでるし、希望も持つ。向上心を抱えて行動することができる。
自分の能力自信を持つことで、人は変わることができる。
9.喜んで協力させる
<これは、子供だましのような気がするかもしれない。だが、ナポレオン一世も同じようなことをやった。彼は、自分の制定したレジョン・ドヌール勲章を千五百個もばらまいたり、十八人の大将に〝元帥〟の称号を与えたり、自分の軍隊のことを〝大陸軍〟と呼んだりした。歴戦の勇士を〝玩具〟でだましたと非難されると、彼は答えた。 「人間は玩具に支配される」>
at location 3559
この章で推奨されている方法は、肩書きや権威を与えることである。
新しい責任と肩書きを与えられた人は、はりきってばりばり働くようになる。
付 幸福な家庭をつくる七原則
1.口やかましく言わない
<ニューヨークの家庭裁判所に十一年間詰めていたベシー・ハンバーガーは、数千件の離婚訴訟を調べた結果、夫が家を出る主な原因は、妻が口やかましいからだと言っている。また、ボストン・ポスト紙はこう言う── 「世の妻たちは、口やかましい小言によって、結婚の墓穴を掘り続けている」>
at location 3646
リンカーン、ナポレオン三世、トルストイは破壊的な夫人を持っていた。
彼女らの小言は、夫婦生活をすっかり破壊しつくしてしまった。
肝に銘じておくべきだろう。
2.長所を認める
<「私がお前と一緒になったのは、結局、財産が目当てだったのだ」 「そう。でも、もう一度結婚をやり直すとしたら、今度は愛を目当てに、やはり私と結婚なさるでしょう」
ディズレーリは、それを認めていた。
確かに彼女は完全な妻ではなかった。だが、ディズレーリは、彼女の長所を十分に伸ばしてやるだけの賢明さを持っていたのである。>
at location 3678
ディズレーリの妻となった女性は、決して完全な妻であるとはいえなかったが、彼をほめたおし、また他愛もないおしゃべりをした。それは多忙を極めたディズレーリにとって、この上ない慰めとなった。
結婚したときは財産が目当てだったが、一緒に日々を過ごすうちに、愛が芽生えた。
佳話である。
3.あら探しをしない
<離婚問題研究の権威ドロシー・ディックスの語るところによると、世の中の結婚のうち、五十パーセント以上は失敗に終わっているそうだ。新婚の夢が破れ、離婚の憂き目を見る原因の一つは、あら探しをすることだという。>
at location 3697
家庭において、パートナーの欠点を見つけ、それを咎めることは、決してプラスの効果をもたらさない。
変わらぬ愛情を継続していくためには、多少気に食わないことがあっても目をつぶってあげることが大切である。
4.ほめる
<女性が夫によって幸福を与えられるとすれば、その幸福は、夫の賞賛と愛情以外のどこにもない。そして、その賞賛と愛情が真実のものであれば、それによって夫の幸福もまた保証される」>
at location 3726
フランス上流階級では、女性の服装について一晩に何度もほめるべきであると、幼少から教育されている。
結婚を賭博にしないためには、男性は女性の「自分を美しく見せようとする努力」を常日頃から称賛すべきである。
5.ささやかな心尽くしを怠らない
<普通、男は、あまり多くの日付を覚えなくても、結構暮らしていける。だが、忘れてならない日も若干はある。たとえば、一四九二年(コロンブスのアメリカ大陸到達)と一七七六年(アメリカの独立宣言)、それに、妻の誕生日と自分たちの結婚記念日だ。はじめの二つは忘れても許せる。しかし、あとの二つは絶対に忘れてはならない!>
at location 3740
一般的に女性は男性よりも記念日を重視する。男性は記念日を覚えておくように、特に気をつけたいものだ。
要は相手のことを気遣っていると知らせることが大事なのである。記念日でなくとも、電話一本、花を数本、と考えてみよう。
6.礼儀を守る
<礼儀は、いわば結婚生活の潤滑油である。>
at location 3769
親しき仲にも礼儀あり。無作法は結婚生活をめちゃくちゃにする。相手が不愉快にならないように、双方が気を遣うべきである。
7.正しい性の知識を持つ
<「結婚生活を幸福にする要素はいろいろあり、性の問題は、その一つにすぎない。だが、性の均衡が破れると、他の要素はいっさい無駄になる」>
at location 3830
結婚における性生活の均衡は非常にデリケートかつ、また難しい。
成り行き任せではなく、賢明に慎重に扱うべきである。
遠慮なく議論を重ね、円満な結婚生活を実現してほしい。
おわりに
<昭和二十八年の夏、カーネギーは、世界周遊旅行の途中、関西を訪れ、京都を見物して香港に向かったが、その際、「日本で一番印象の深かったものは?」という質問に「それは日本人です」と言い残して船に乗った。人間に対する彼の関心の深さを示す言葉と言えよう。>
at location 3874
D・カーネギーは人間に対する興味を追求し続けた人です。
そんな人が書いた本であるからこそ、『人を動かす』は全世界でベストセラーになり、また今もなお読み継がれている名著であるといえます。
一度読んだとしても、読むたびに発見がある。座右に置いてしばしば手に取りたい本のうちの一つです。
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