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近眼だけではない
読書をする人には2種類いる。読書自体が楽しいから読む人と、読書をするといいことがあるから読むという人だ。
本書は後者の人を作り出すことを目的としている。前者は、そのように誘導するのが難しい。
読書をするといいことがあるから本を読む、という人は正直である。行動にかかるコストが行動のもたらすベネフィットを上回るのでそうするという、たいへんビジネスライクな考え方である。これはできるだけ合理的であろうとする人間の習性からいって健全だ。そう考えると「楽しいから読む」はなんだか不健康なあり方に思えてくるから不思議だ。まるで天の美禄のように。
『本を読む人だけが手にするもの』はそのタイトルの通り、読書によってあなたが手にするものを示している。読んで何を思うかは個人の自由だが、おそらく大多数の方は「そうだ、本を読もう」と思うだろう。
読書と所得。1冊の価値。読書で得られる「見方」と「味方」。人生を変える本と出会う。読書を習慣化する……などが書かれている。
最初に「読書自体が楽しいから読む人を作るのは難しい」と書いた。スポーツと同じである。
野球を「楽しいから」と始める人はいない。たいていはメディアや周りの人間などの影響である。最初はうまく捕ったり投げたり打ったり走ったりできないので「楽しいからやっている」は稀である。野球をするとみんなと遊べるだとか、野球をしている人はかっこいいだとか、そのような「いいこと」を駆動力に野球をしているはずである。
しかし時間が経ちある程度のプレーができるようになってくると、意識に変化が生じていることに気づく。「私は野球が楽しいからやっている」。
読書も同じである。「読書の効能」に釣られて読んでいるうちに、読書自体が楽しいと思うようになる。
それが良いか悪いかはここでは検討しないが、私は良いと思う。
(778字)
作品情報
著者:藤原和博