ピエール・ルメートル『天国でまた会おう』800字書評

あらすじ

 時は第一次世界大戦末期。
 戦場に流れる停戦協定の噂。兵士たちの気分はだらけきっていた。
 そのさなか出された無謀な突撃命令。
 それはブラデルの罠だった。
 アルベールは砲弾跡に生き埋めにされかけるが一命をとりとめ……

上書きされた「仮面」

KKc
ピエール・ルメートル『天国でまた会おう』の800字書評です。

 

 第一次世界大戦の終わりごろ、戦場においてアルベールは上官プラデルの画策を目撃する。プラデルは戦争を利用し、金もうけを企んでいたのだ。アルベールはそれを知ったことにより殺されかけるが、エドゥアールに助けられる。

 

 重傷を負いながらも九死に一生を得た二人。戦争から帰還しても、過酷な日々は続く。そしてプラデルは私服を肥やすことに腐心していく……。

 

 顔面の半分を吹き飛ばされたエドゥアールは、仮面を付けて暮らす。天才肌の青年は、偽りの人生を生きることを選択した。

 

 もしも天国があるのなら、この世の生活はどのような位置づけになるだろうか。天国で暮らすことが「素顔」だととらえるのであれば、生きている間は「仮面」をつけて生活しているようなものではないだろうか。

 

 そしてエドゥアールは「仮面」の世界において、そのさらに上から「仮面」をつけることを選んだ。半壊した「仮面」の上に「仮面」を上書きするという手段をとったのである。
 戦場を利用した金もうけのとばっちりで受けた「仮面」の傷を隠すためには、同じく戦争にかかわる「仮面」を使うことしか考えられなかった。
 エドゥアールが戦死者追悼における詐欺を計画したのはそのためである。

 

 そういう意味で『天国でまた会おう』はピカレスクロマン(悪党小説)として楽しむことができる。
 「悪党が天国に行けると思っているのか?」
 「悪党」と呼ばれる人々だって、エドゥアールのように「仮面」をかぶって生きているのかもしれない。ひょっとしたら、プラデルすら「仮面」の元に行動しているのかもしれない。だからたぶん、みんな天国に行くことができる。
 天国では、仮面は必要ないだろう。

(705字)

 

作品情報

著者:ピエール・ルメートル
訳者:平岡敦
2013年ゴンクール賞受賞

 

おわりに/h2>

KKc
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