目次
あらすじ
時は第一次世界大戦末期。
戦場に流れる停戦協定の噂。兵士たちの気分はだらけきっていた。
そのさなか出された無謀な突撃命令。
それはブラデルの罠だった。
アルベールは砲弾跡に生き埋めにされかけるが一命をとりとめ……
上書きされた「仮面」
第一次世界大戦の終わりごろ、戦場においてアルベールは上官プラデルの画策を目撃する。プラデルは戦争を利用し、金もうけを企んでいたのだ。アルベールはそれを知ったことにより殺されかけるが、エドゥアールに助けられる。
重傷を負いながらも九死に一生を得た二人。戦争から帰還しても、過酷な日々は続く。そしてプラデルは私服を肥やすことに腐心していく……。
顔面の半分を吹き飛ばされたエドゥアールは、仮面を付けて暮らす。天才肌の青年は、偽りの人生を生きることを選択した。
もしも天国があるのなら、この世の生活はどのような位置づけになるだろうか。天国で暮らすことが「素顔」だととらえるのであれば、生きている間は「仮面」をつけて生活しているようなものではないだろうか。
そしてエドゥアールは「仮面」の世界において、そのさらに上から「仮面」をつけることを選んだ。半壊した「仮面」の上に「仮面」を上書きするという手段をとったのである。
戦場を利用した金もうけのとばっちりで受けた「仮面」の傷を隠すためには、同じく戦争にかかわる「仮面」を使うことしか考えられなかった。
エドゥアールが戦死者追悼における詐欺を計画したのはそのためである。
そういう意味で『天国でまた会おう』はピカレスクロマン(悪党小説)として楽しむことができる。
「悪党が天国に行けると思っているのか?」
「悪党」と呼ばれる人々だって、エドゥアールのように「仮面」をかぶって生きているのかもしれない。ひょっとしたら、プラデルすら「仮面」の元に行動しているのかもしれない。だからたぶん、みんな天国に行くことができる。
天国では、仮面は必要ないだろう。
(705字)
作品情報
著者:ピエール・ルメートル
訳者:平岡敦
2013年ゴンクール賞受賞