『心が叫びたがってるんだ。』名言と読書感想文

※引用はすべて豊田美加(原作/超平和バスターズ)『小説 心が叫びたがってるんだ。』小学館文庫による

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あらすじ

 言葉は人を傷つける。
 ”呪い”をかけられた少女は、静かに高校生活を送っていた。
 冷めた目の少年は、ピアノを弾かずDTM研究会に所属していた。
 明るいクラスの人気者には、胸に秘めた想いがあった。
 野球部のエースは、肘と共に心まで損なわれていた。
 これは四つの心が叫ぶ物語。

名言

ちがうよぉ! いっくんじゃなくて、哀れなのは私!
(32頁)

『私の心を覗き見していますか?』
(69頁)

「歌ならさ、呪い関係ないかもしれねーし」
(89頁)

『私の言葉を、歌にして下さい』
(125頁)

「せ、声優さんは二・五次元!」
(141頁)

「……けど、ひとりでも本気のやつがいるんなら、そいつに乗っかって、必死こいてやってみるのも面白いんじゃないかって思ったんだ」
(177頁)

「私の……王子様……」
(214頁)

「青春の痛みだ」
(231頁)

「傷ついていいから、お前の本当の言葉、もっと聞きたいんだ」
(271頁)

「知ってたよ」
(280頁)

【読書感想文】原稿用紙3枚(1200字,60行)

KKc
「心は叫べない」

 言葉は人を傷つける。『心が叫びたがってるんだ。』に繰り返し現われる主題です。

 成瀬順は話すことができませんが、それは自分の言葉で両親の関係を傷つけてしまったからです。彼女は「王子の妖精」を想像して自分で自分の言葉を封印してしまいました。

 仁藤菜月は中学時代に坂上拓実を傷つけたことを、今でも後悔しています。彼らは付き合っていましたが、菜月の言葉がきっかけで関係が壊れてしまったからです。

 田崎大樹は野球部のエースピッチャーですが、右ひじの故障により苛立ち、「今のエースは山路だ」とまで言い放ちます。これを責任の放棄と山路はとらえ、二人の関係は微妙なものになります。またその言葉は、田崎を気遣う親友・三嶋をも傷つけます。田崎の復帰を願い、何かと気遣っているつもりの三嶋ですが、その気持ちが届いていないように感じたからです。

 四人のメイン・キャラクターのうち坂上拓実だけが言葉によって誰かを傷つけていません。ですがクライマックスになって順を傷つけてしまいます。

 <俺は別に成瀬のこと、好きとかそんなんじゃない!>

 言葉は人を傷つける。傷つくのは人の「心」です。そして傷ついた心は悲鳴を上げたがる。でも心は叫ぶことはできません。いくら叫びたがっていても、叫ぶことはできない。その「叫び声」は抑圧されたまま、消えてしまうのでしょうか。

 『心が叫びたがってるんだ。』では「叫び声」は必ず代弁されます。

 <「お、大げさだな……歌詞はおまえのだ……」>
 これは順の書いた物語に拓実が曲をつけたときのシーンです。順は全身で賞賛を表現し、その様子に拓実は笑いました。

 どうしてここで順が拓実の音楽を大絶賛したのかというと、彼が自分の「叫び声」を代弁してくれたからです。彼女の「叫ぶことのできない」心の代わりに歌ってくれたので、こんなに喜んだ。

 また、ファミレスで田崎と山路が衝突したとき、順は叫びます。話すことのできない「呪い」がまるでなかったかのように、田崎に味方する言葉を絶叫しました。それは一見すると自分のトラウマに触れる言葉を山路が言ったからのように見えますが、田崎の心の「叫び声」の代弁と解釈することもできます。田崎の「叫ぶことのできない」心の代わりに順は叫んだのです。

 『心が叫びたがってるんだ。』の作中では、それぞれが自分の心の叫びを、代わりの何かに代弁してもらっています。

 心は叫ぶことはできない。叫ぶことができるのは、声や歌だけです。

 それは言葉によって傷つけられた心の、唯一の癒しの手段だと私は思いました。

(60行,原稿用紙3枚ぴったり)

おまけ

 『小説 心が叫びたがってるんだ。』は巻頭にカラーの人物紹介が付いています。
 仁藤菜月のところに誤植(?)を見つけました。

 <チアリーディング部の部長。
  明るい性格の持ち主で
  クラスの人気者でもある。
  拓実と三嶋は中学校の同級生なのだが、
  ある出来事から、
  拓実とは距離を
  置くようになってしまった。>

 読む前は「どうして菜月のところに三嶋(野球部のキャプテン。田崎と仲が良い)が出てくるんだ?」軽い疑問を持ちましたが、「ストーリーの中で三人(拓実、菜月、三嶋)の関係性が重要になってくるのだな」と理解しました。
 しかし読み終わってみると全然そんなことはなく、つまりたぶん誤植だと私は思います。

【追記】

 ということを書いていたら、仁藤菜月と三嶋の関係性についてコメント欄でお知らせくださった方がいました。ご教示ありがとうございました。

 中学時代の「ある出来事」が拓実と菜月の関係にヒビを入れました。
 そのことが作中で初めて明らかになるシーンが112頁にありました。

 「今日の坂上、もしかして菜月にいいとこ見せたかったのかな」
 渡り廊下に目を残したまま、三嶋が言った。
 「は?」
 「いや、俺あのふたりと同中なんだけど、中学んとき……」
 嘘みたいな三嶋の話に、大樹は目を丸くした。
(112頁)

 見落としていました。
 拓実と菜月の関係について言及されたのは、ここが最初です。重要なところです。
 そのような重要な役割を演じるがゆえに、三嶋は仁藤菜月の自己紹介にその名前を記されたのですね。

おわりに

KKc
お読みいただきありがとうございました。

過去に書いた「読書感想文」はこちらから。

記事に対する感想・要望等ありましたら、コメント欄かTwitterまで。

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コメント

  1. 霜月 より:

    仁藤の紹介になぜ三嶋が出てくるのかについて

    あなたは数多くの本を読んでいらっしゃるようなので、私の文章に違和を感じられるかもしれませんが、ご勘弁ください。

    私は小説を読んでいないですが、映画は見ました。映画と小説は違っているところがあるのかもしれませんが、映画での関係性を説明させて頂きます。
    三人が同じ中学校だったこと、坂上と仁藤が付き合っていたということは三嶋の口から語られました。丁度このシーンは坂上と仁藤の関係が初めて明かされた重要なシーンになっています。だから仁藤の登場人物説明に三嶋の名前が出てくるのだと考えています。
    知っているとおっしゃられるのなら、余計なことをしてしまい、申し訳ありませんでした。

    とても面白い感想のまとめ方をしていらっしゃいますね。あなたの感想を拝読させていただいたあと、小説版を読んでみたいという気持ちに駆られました。あのお話がどう文字にまとめられているのかと思うと、わくわくします。

    書きたいことを長々と書き連ねてしまって申し訳ありません。では失礼します。

    • KKc より:

      たいへんていねいにお知らせいただき、ありがとうございます。とてもわかりやすいアドバイスでした。

      探してみたところ、小説の112頁にご指摘されたような文章がありました。
      三嶋が田崎大樹に「ある出来事」を教えるという重要な役割を演じています。
      見落としていました。なくてはならないシーンですね。

      ご教示いただきありがとうございました。
      早速記事を修正します。