西加奈子『きいろいゾウ』800字書評

世界に優しくなるために

KKc
西加奈子『きいろいゾウ』の800字書評です。

 

 田舎で暮らすと、感受性が強くなる。そこにはあまり人間がいないから。人工物が少ないから。
 人間は、そこにいるだけで私たちに多少のプレッシャーを与える。人工物――たとえば車の走る音、踏み切りのトゲトゲしい色、自動ドアのタイムラグ――は自然に比べてストレスが(たぶん)多い。

 

 田舎は、人間・人工物の絶対量が少ない。そこでは私たちは知らず知らずのうちに、自らのセンサーの感度を上げる。慈しむように空気を吸い、靴底に触れる草や土の感触を確かめながら歩み、遠くから聴こえる虫や鳥の音を感じる。

 

 『きいろいゾウ』の魅力をすべて受け止めるためには、そのような気持ちで作品に臨むのがいちばん良いと思う。
 とはいえ。

 

 いちばん良いとは言っても、私たちは日々の喧騒から抜け出して読書、という環境をつくることはなかなかかなわない。
 というわけで、『きいろいゾウ』の二番目に良い読み方は「非日常に浸る」読み方だと私は思います。

 

 『きいろいゾウ』の文章を追い、田舎の風景を思い浮かべる。そこに立つ風を感じたり、そこに生える木々や植物を想像してみる。いつもよりゆっくり読書をしてみる。

 

 そうすることできっと私たちは、心地の良い読書時間をすごすことができます。
 ページから顔を上げたとき、踏み切りの黄色が優しい色に見えたら、黄色が「きいろ」に見えたなら、私たちは読む前よりも少しだけ、世界に優しくなっているはずです。

(602字)

 

作品情報

著者:西加奈子
情報:2013年に映画化

 

おわりに/h2>

KKc
お読みいただきありがとうございました。

 

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