森博嗣『彼女は一人で歩くのか?』感想と考察

※引用はすべて森博嗣『彼女は一人で歩くのか? Does She Walk Alone?』講談社タイガによる

あらすじ

 「赤い魔法を知っている?」

 ウォーカロン(walk-alone)は人工細胞で作られた生命体である。外見的には人間と変わらず、違いを容易に識別することができない。

 人工細胞による人類の長寿化と、人口減少、すでに人口の半数はウォーカロンになったとも言われる世界。

 ハギリは人間とウォーカロンの識別に関する研究をしている日本の科学者だ。
 「あなたは命を狙われている」と話す女性・ウグイが現れ彼は彼女についていくことになった。

※本記事はネタバレを多分に含むため、読後に読むことをおすすめします。

 

「ウォーカロン」とは?

 人工細胞で作られた生命体のこと。
 自律的(Walk-Alone)に活動する。
 外見上、人間との見分けは困難。
 子どもを作ることができない。
 生みの親はマガタ博士。

 

読んだ人のためのダイジェスト

プロローグ

 アカマの研究室で爆発が起きる。

絶望の機関 Hopeless engine

 アリチとの出会い。
 大浴場での会話。
 飛行機から飛び降りる。

希望の機関 Wishful engine

 ニュークリアへ。
 チカサカに会い、熊の本をもらう。
 赤い魔法で熊は倒れる。

願望の機関 Desirable engine

 ミチル、マガタ博士との出会い。

展望の機関 Observational engine

 国際会議。
 バスが襲われる。

「黒い魔法を知っているか?」僕はきいた。
「何?」
「赤い魔法を知っているか?」続けてそう尋ねた。
何も起こらなかった。
(237頁)

エピローグ

 ウグイとの再会。

 

「彼女は一人で歩くのか?」タイトルの意味は?

 副題が「Does She Walk Alone?」なので、このタイトルは3つの意味を含んでいることがわかります。

 字面どおり「ある女性が一人で歩行するのか?」という意味と、「ある女性がウォーカロンかどうか」という意味、さらに「ある女性がウォーカロンとしてふるまっている(does)かどうか」という意味です。

 ダブルミーニングだと思っていたらトリプルミーニングのタイトルでした。あるいは私が気づいていないだけで、もっと多くの意味を含んでいるかもしれませんが。

 「ある女性」の候補としては3人挙げられます。
 ウグイ、ミチル、マガタ博士。

 

「ある女性が一人で歩行するのか?」という問題

 ウグイは一人で歩行しない。ハギリの護衛をするから。
 ミチルは一人で歩行しない。子どもなので、保護者がいるから。
 マガタ博士は一人で歩行する。ハギリと小さな店で出会ったとき、一人だったから。

 

「ある女性がウォーカロンかどうか」と「ある女性がウォーカロンとしてふるまっている(does)かどうか」という問題

 ウグイはウォーカロンではない。

「私も先生も、比較的新しい人間なのですね」
(190頁)

 

 ミチルはウォーカロンであり、それを自分でも表明している。

「スミレさんもウォーカロンと言ったけれど、ほかに、誰がウォーカロンなのかな?」
「私」
(160頁)

 

 マガタ博士についてはわからない。

「私は、ウォーカロンです」
「嘘だ。そんなはずはない」
「では、人間です。先生の判断に従いましょう」
「素晴らしい」僕は頷いた。
(180頁)

 

 ハギリの反応からして、ハギリはマガタ博士を人間だと判断したのかもしれません。
 作中で「ウォーカロンかどうか」に結論が出ていないのはマガタ博士のみです。
 よってこの小説のタイトルの意味は「マガタ博士はウォーカロン(としてふるまっているか)かどうか」であり、そしてそれは明らかになっていないため、今後も続くテーマであると私は考えます。

 

赤い魔法とは?

 「赤い魔法」についてはよくわかりません。
 「魔法」に関する記述を羅列してみます。

 

 ハギリの助手はアカマ。
 「赤魔」とも考えられる。何かの暗示?

 

「黒い魔法を知っている?」
「そんなものは怖くないさ」と熊は言いました。
「白い魔法を知っている?」少女は続けて尋ねました。
「そんなものはなんでもないさ」と熊は笑います。
「じゃあ、赤い魔法を知っている?」
それを聞いた熊は、そのまま動かなくなりました。
そして、砂が崩れるように、地面に落ち、散ってしまったのです。
(140頁)

 

 「黒い魔法をご存じですか?」(177頁)とマガタ博士がハギリに訊ねる。

 

 237頁において、ハギリの窮地を救う言葉となる。

 

話し合う時間は、いくらでもあるのではないか、とそう思うのである。
もしかしたら、その時間を気づかせることが、<赤い魔法>なのかもしれない。
(253頁)

 

 次作のタイトルが『魔法の色を知っているか?』なので、そのときに明らかになると私は予想します。

 

「Wシリーズ」次作以降の刊行予定

『魔法の色を知っているか?』
『風は青海を渡るのか?』

 

おわりに

KKc
お読みいただきありがとうございました。

 

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