※引用はすべて森博嗣『作家の収支』幻冬舎新書による
はじめに
<僕自身は、金のことを書くのは恥ずかしいことでも汚いことでもない、と考えている。しかし、どちらかといえば、格好の良いことではない。黙っている方が文化的にも美しいだろう、と理解している。ただ、誰も書かないのならば、知りたい人のために語るのは、職業作家としての「仕事」だと思った。「使命」と書かないのは、正直だからである。>
(8頁)
<一人の人間が、パソコンに向かって文字を打つ。文章を書く。それだけの活動によって作品が生み出される。グループで協力し合うような仕事が多いなか、小説家だけは、ただ一人で作品を生み出す。その仕事によって、どれくらいの金額を稼ぐことができるのか、ということが、この本の内容である。>
(11頁)
本書は作家・森博嗣が得た収入と、支出について書かれた本です。
森博嗣は物理的な取材もせず、また会社も持っていないので、支出はほとんどありません。稼いだ額の半分も使えていない、という記述(169頁)もありました。
というわけでページの大半(四分の三程度)は、収入について書かれています。
たぶん本書を手に取った方の大半もそちらに興味があるのでは。
デビューから19年で278冊出版、約1400万部。本が稼いだ総額は15億円(199頁)とあります。
どのくらい稼ぐかというよりも、何に金を使うかの方が個性的で面白いと私は思うのですが……(森博嗣の趣味に関するエッセイはとても面白い)。
小説家の文章はいくらで売れる?
28頁によると、原稿料は原稿用紙1枚あたり5000円。
原稿用紙は400字詰めなので、改行などを加味すると300~350字で5000円です。
長編小説はだいたい原稿用紙400枚~600枚ということなので、一作品で、原稿料的には200万~300万円ほどになる計算です。
この他に発行部数に応じて印税収入があるので、最低限長編を年に一冊連載し発売すれば、生活できるくらい稼ぐことができると思われます。
森博嗣は1時間でどのくらいの文字を書ける?
<僕は、キーボードを叩いて文章を書く。1時間当りに換算すると6000字を出力できる。>
(27頁)
やってみた方ならおわかりになるでしょうが、1時間で6000字打つ指の動きは相当速いです。
ちなみに私は(おそらく)1時間で3000字くらいしか書けません。
印税はふつう何%か?
<ちなみに、この作品(『すべてがFになる』のこと)では印税率は最初から10%だった。>
(47頁,カッコ内は私が書きました)
印税はふつう10%のようです。ただし書き下ろしになると(雑誌連載などをしていないと)12%が慣例らしいです。
森博嗣は10%の印税を12%に引き上げる交渉もしています(47頁)。
著作以外の収入は?
講演会、インタビュー、メディア出演、推薦文、解説、マンガやドラマ原作などについても、著者はそれらからの収入を記載しています。
メディア出演の報酬は少ないことが意外に感じました。
<スタジオにただ呼ばれるだけのゲストは、収録に時間がかかる割りに出演料は微々たるものだ。>
(111頁)
テレビ出演は広報活動・宣伝活動という意味合いだからでしょう。
意外です。お弁当などはいただけるみたいですけど。
おわりに
本記事で取り上げた意外にも、Amazon殿堂入り作家になったエピソード(盾とダンボーのフィギュアが送られてきたらしい)や、これからの出版についての展望のようなものも収録されており、作家業の収入以外についても、興味深い内容となっています。
最後に印象に残った文章を引用します(作家の収支とあまり関係ない文章ですけど)。
<「新しさ」をいつも自分の頭から絞り出すこと、それが、人が生きていくうえでも非常に重要な目標だ、と僕は信じている。>
(202頁)
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