※引用はすべてトマ・ピケティ(村井章子訳)『トマ・ピケティの新・資本論』日経BP社による
概要
『トマ・ピケティの新・資本論』はピケティの新聞連載をまとめた”Peut-on sauver l’Europe?”を元にした訳書である。
原題”Peut-on sauver l’Europe?”は村井章子訳によると「ヨーロッパを救えるか?」であり、また、文章もあまりマルクスの『資本論』に関連するものではないように思える。これから読む方は注意されたほうがいい。
中心トピックはヨーロッパにおける再配分・格差(をめぐる税制度)であり、この点にピケティの問題意識の所在を読み取ることができる。
感想
読んでいて勉強になったところを述べる。
<通貨は共通なのに債務は共通でないという組み合わせは、うまくいかない>
(18頁「序文」)
EUにおけるユーロと、EU諸国の抱える債務・国債金利のちぐはぐさを指摘。
ピケティは欧州共同債の発行を解決策の一つとして掲げている。
<ZEP内にあるというというだけで「ダメ学校」の烙印を押され、多くの親が越境や転居を画策する。>
(53頁「ZEPはフランス流アファーマティブ・アクション」)
ZEP(Zone d’education prioritaire)は「教育優先地区」と訳される地域。
「社会的に恵まれない」生徒や親の多い地域を指定し、そこに存在する学校に特別な予算をつけたり支援をしたりする。
そこに住む家族が引越し・移動を考えることは合理的であると思う。
<アメリカにも相続税廃止に反対の声は多く、とりわけ自力で立身出世した人は子孫に美田を残したがらない。>
(59頁「相続税はどうあるべきか」)
このような状況は想像できるけれども、なんだかしっくりこない。
じゃあ、美田は優秀な部下に残すのか?
それとも、母校に寄付?
国庫に寄付?
<従業員を解雇する前に企業に熟慮を促し、かつ解雇に伴う社会保険料を「内部化」させるために、労働契約を破棄した企業は失業保険料を負担するだけではなく、再就職の斡旋と職業訓練の費用も負担する。>
(63頁「労働契約を再考する」)
これはよい案だと思った。
人材を「使い捨て」する企業は、国にとって、失業保険支払い・メンタルケアに関わる治療費・再就職のための費用などを増大する要因である。
それらを負担させるようにしてしまえば、そのような企業は倒産するか、あるいは態度を改める可能性がある。「抜け穴」を探すかもしれないけれど。
<フランスでは、厳寒期の一一月初めから三月一五日まで、「冬期休戦(trêve hivernal)」と言って家賃未納者の強制退去は禁じられている。>
(96頁「権利を謳えば効果はあるか?」)
初めて知った。
フランスではそんなに家賃が払えなくなる人が多いということか。
<経済成長によってGDPに締める政府部門の比重は自動的に下がるというばかげた意見は、経済の基本的なメカニズムを全然わかっていないことを露呈している。政府部門の給与が劇的に低下しない限り(そのようなことは、国家が効果的に機能するうえでけっして望ましくない)、医療、教育、年金などのサービスを変わらずに維持するために、政府部門はほぼ一定の比率を占めるのである。>
(99頁「サルコジの不可能な公約」)
たしかに、経済成長がなされると、要求される教育・研究に関する予算は増えることが予想される。
また、医療サービス、社会保険を経済成長に対応させようとすると、どうしても政府支出は大きくならざるを得ないように見える。
<たとえば所得というフローではなく、資産そのもののストックに課税するモデルが考えられる。未来は今日から始まるのだ。>
(112頁「二〇世紀型税制の終焉?」)
ピケティ『21世紀の資本』につながる、萌芽のような文章だと思った。
<自律性というものは、しかるべきリソースが与えられ、そのリソースが将来的に保証されていなければ成り立たない。貧乏の中の自由はあり得ない。>
(156頁「大学の自律を巡る欺瞞」)
前半の堅苦しさを、後半でさらりとわかりやすく言い換えている。
<有権者というものは、自分にはとんと理解できない天才的な政策よりも、力強いリーダーシップや変動する世界に的確に対応する能力を求めていることを忘れてはならない。>
(196頁「敵失狙い?」)
政治家は、投票者たち自身が理解できる言葉で、思想で、選挙に臨まねばならない。
おわりに(自分のためのメモ)
(これは!)と思った章は4つ。
- 30.利益、給与、不平等
- 35.GDP崇拝をやめよ
- 59.保護主義は奥の手
- 74.経済成長はヨーロッパを救うか
参考までに。
おわりに
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