※引用はすべて森博嗣『臨機応答・変問自在2』集英社新書による
はじめに
森博嗣『臨機応答・変問自在2』は、著者に対する質問とそれに対する回答集です。
質問は小説家である著者が、HPで読者から募集したものです。
森博嗣の回答がウィットに富んでいて、私の好きな本のひとつです。たとえば
Q.物を集めるというのはどんな心理ですか?
★文字を集めて小説を書きます。それと同じです。
(63頁)
などです。
本記事では私が好きな質問・回答を10個選んでみました。
興味がわいたらぜひ手にとって見てください。
質問1
Q.マニアの境界条件を教えて下さい!
★たとえば小説ならば、本を買って読む以外のアプローチをする。
(30頁)
さらにマニアとオタクの境界条件は、語りたいかどうかだと思います。
その点において、私はマニアよりオタクの方が好きです。
質問2
Q.ウチの高校のある先生が「努力をする奴は馬鹿」と言っていたのですが、どう思いますか?
★その先生は、きっと努力をしたのでしょう。
(42頁)
どっちともとれる。
努力をしたけれど、それを隠して「努力なんてしてないさ」という顔をしている方が賢いふるまいだと思っている。
努力をしていないが高校教師になれた(高校教師になるのに努力が必要だと仮定して)ので、「自分はすごいんだ」と自慢をするための言葉。
私は「努力をする奴はすごい」と思っていますけど。
質問3
Q.工学と理学の本質的違いは何とお考えですか?
★分野によりますが、理由(why)を探求するか、対処策(how)を考えるか、の違いに集約される気もします。しかし、両者は切り離すことができません。
(151頁)
そうそう。両者は切り離せない。
だからたとえば大学では、工学分野において理学研究が行われたり、その逆のことも起こっているのだと思います。
質問4
Q.空はどこまであると思いますか。
★地球の周囲にしかありません。大丈夫ですか?
(156頁)
こういうやりとりが好き。
そんなに突飛な回答でもないのにギャグとして成立しています。
付け加えられた「大丈夫ですか?」もすばらしい。
質問5
Q.「起立、きょうつけ」の「きょうつけ」の語源は何だと思いますか?
★微笑ましい質問ですね。日本は平和です。気をつけましょう。
(191頁)
この質問と回答も好きです。
コミュニケーションが成立していないようでしている感じ。
質問6
Q.アポロの月面着陸は嘘だったという噂について、先生はどう思われますか?
★いつの時代にも、同じ話題を持ち出す奴がいるのだな、と思いました。ワールドカップは本当ですか?
(202頁)
森博嗣は(ばかばかしい)質問に対してこういう風に答えるときがあります。
「質問に対する見解」ではなく「質問をすることに対する見解」を述べるときがあります。
こういう回答・考え方をするので「森博嗣は切り口がすばらしい」と言われるのでしょう。
質問7
Q.どうして人間は嘘をつくのでしょう?
★自分の利益ためです。人間以外の動物も嘘をつきます。
(217頁)
『冷たい密室と博士たち』の最後の質問がこんな感じだったな、と思い出して確認したところ違いました。
そちらは「内緒と沈黙はどう違うか?」でした。
質問8
Q.「いちご大福」と逆にいちごの中に大福が入っている食べもの(仮に「大福いちご」と呼ぶ)があったとしたら、それは「和菓子」と「果物」どちらのカテゴリィに分類したいですか?
★果物として売ったら詐欺だと思いますが。
(221頁)
和菓子屋さんで売るのもどうかと思いますけどね。
比較検討するときには、片方であると仮定して考えるというやり方があります。
「仮定法」って名前でしたっけ(あいまい)。
質問9
Q.これからさき、今までの常識を覆すような、今までの生活が全然違うものになってしまうような、大発見、大発明があるとしたら、どんなものだと思いますか?
★そういったものはないと思います。
(227頁)
これ、『臨機応答・変問自在2』の中でいちばん好きな質問です。
常識の中にいては常識外れのことは想像できない、という暗喩です。
質問10
Q.「もっと人の気持ちをわかりなさい」と言われて、「他人の気持ちなんてわかるものではありません」と言い返すと、相手は余計に怒ってしまいました。これは私に非があるのですか?
★あなたの気持ちは森にはわかりません。
(246頁)
言い返すなら、森博嗣みたいに返答すればよかったのに。
たいていこういうときは沈黙がいいと思いますが。
おわりに
楽しんでいただけましたでしょうか。
『臨機応答・変問自在』についても同じような記事を書いています。
【関連リンク】「森博嗣『臨機応答・変問自在』―私が好きな10個の質問(と答え)」
では、よい読書を。
記事に対する感想・要望等ありましたら、コメント欄かTwitterまで。